愛が嫌い
町屋 良平
2019年6月27日
文藝春秋
1,815円(税込)
小説・エッセイ
日常の中にも、一瞬先のカタストロフ。自我の輪郭があやふやなぼくは、愛と生活を取り戻せるのだろうか。交錯する優しい感情。新しい関係の萌芽を描く、パラレル私小説3部作。芥川賞作家の新境地。
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(無題)
しずけさ、愛が嫌い、生きるからだ、の三編。町屋さんの小説はなんか詩みたいだな……と思った。詩読んだことないけど。 言葉がバラバラに頭の中に入り込んでくるときがあって、読むのに時間がかかる。でも小説としての面白さも保たれていて、意味がわかると意味がわからないの境界線を行ったり来たりしている感じ。絶賛できるほど理解できているわけじゃないけど好きなほうではあるんだよな。 ●しずけさ ゆううつと不眠で仕事をやめ昼夜逆転生活を送っている棟方くんと、小学生で幸福な家庭で暮らしているのに真夜中だけ家を追い出される樹くん。棟方くんは樹くんを椚くん(小学校の同級生の名前)と呼ぶ。2人が毎晩川の辺りで過ごす、という話 p44 持たざる不幸は持つ不幸によく似ていて、幸福なクラスメイトは不幸を迫害しながら不幸にあこがれている。だから不幸をいうと自慢とおもわれる。それがもっとも孤独だ。もっとカジュアルに不幸をいいたいよ。 ここが好きだった。不幸にあこがれるの小学生の頃から風潮としてあったんだっけか。人は変わらないんだな… ●愛が嫌い 言葉を発さない2歳児のひろ(友人の子供)を毎日保育園に迎えにいく話 ひろの世界のみえかた、を主人公が想像していて、手の握り方で感情がわかる、とか、そういう子供の素直さ、純粋さがダイレクトに伝わってくる。いいな。 ●生きるからだ これが一番すきだったかも。 記憶喪失、とは言っても記憶が丸ごと消えるのではなくて、感慨だけ無くしてしまった上松(男)、妻がお金持ちかつ多忙で上松の家に居候している草生(男)、上松が出会い恋人となり最後は結婚する山梨さん、その生活。 一般的でない人間関係だけれどどろどろすることもなく、ただ生活だけがあって、丁寧にごはんを作って食べる、そういう記述を読むのが好き。これまたごはんが美味しそうで、いいのよな。草生さんが料理にはまっていてスパイスに凝ってたり、朝は毎日おかゆだったり、その描写が特別感のない生活として描かれている。 上松は希死念慮にとらわれてたりもするんだけど、死にたいけど死ぬのもめんどくさいっていう感じは人間の基本だと思ってるのでどちらかといえば正常な感じもする。 p202 「生活がたのしいけど、生活に閉じこめられて、生活を膨らませるのはできても、たまには生活の外にでるべきだった」
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