へぼ侍
坂上 泉
2019年7月9日
文藝春秋
1,540円(税込)
小説・エッセイ
明治維新で没落した大阪の与力の跡取り錬一郎は、幼いころより丁稚奉公に出され商人として育てられる。それでも士族の誇りを失わない錬一郎は周囲の人間から「へぼ侍」と揶揄されていた。1877年、西南戦争が勃発すると官軍は元士族を「壮兵」として徴募、武功をたてれば仕官の道も開けると考えた錬一郎は意気込んでそれに参加する。しかし、彼を待っていたのはひと癖もふた癖もある厄介者ばかりの部隊だったー。落ちこぼれ兵士たちの活躍を描く痛快歴史エンターテイメント開幕。松本清張賞受賞作。
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(無題)
この小説は、元士族・志方錬一郎の青春物語である。舞台は維新後10年の西南戦争。中世から続く古い価値観とヨーロッパ輸入の真新しい思想とが混在する時代に突然投げ込まれたら、人はどのように考え行動するのであろうか。明治政府が身分制を廃止したのは、発足後さして時を経ない明治4年のことであった。政府は、生産に関わらない武士階級を扶養し切れなくなっていたのだった。身分と扶持を強制的に剥奪された武士に不満がないはずがない。それを西南戦争の一因と考えるのは、的を大きくは外していない。 さて、錬一郎の父は大坂東町奉行所与力だったが、鳥羽伏見の戦いで命を落とし、志方家は没落した。幼い頃より薬問屋の丁稚で糊口を凌いでいた錬一郎であったが、かつて父が営んでいた剣術道場「士錬館」の再興を生涯の目標としていた。錬一郎の目に志方家再興の絶好のチャンスと映ったのが西南戦争であった。こうして、政府軍に従軍した錬一郎であったが、彼の前に現れたのは、小料理屋の沢良木、銀行員の三木、傭兵稼業の松岡であった。彼らも錬一郎同様に明治の世をサムライらしく誇り高く生きようとしたのであったが、それは叶わなかった。戦場で彼らを救ったのは、武士としての誇りではなく、皮肉なことにそれぞれの稼業で培ってきた技術と知恵だった。 そして、錬一郎のその後の生き方を大きく変えた人物との出会いがあった。郵便報知新聞の従軍記者・犬養毅である。犬飼は錬一郎にヨーロッパ直輸入の概念・パアスエイドを熱く語った。「エゲレス語で、得心せしめる、と言う意味で漢語に訳せば『説得』『説諭』といったところだ」。言論による説得で国を治める。つまり、民主主義の原点を語ったのであった。ここが錬一郎の言論人としての出発点であった。 本作は作者の創作による小説である。しかし、このように実在の人物を配して作品に深みとリアリティーを加える手法は実に巧みである。西南戦争の首魁・西郷隆盛も登場させている。大人物なるが故に不満分子に大将と祭り上げられ、歴史に逆賊の名前を刻んだ西郷隆盛といい、「話せばわかる」と言いながらも「問答無用」と凶弾に倒れたパアスエイドの人・犬養毅。人生の皮肉な巡り合わせに作者の厭世観を垣間見たような気がした。
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