独裁者プーチン

文春新書

名越健郎

2012年5月21日

文藝春秋

990円(税込)

人文・思想・社会 / 新書

世界の注目を集めつづけるプーチンだが、この「隣国の独裁者」の素顔は意外に知られていない。本書では豊富なエピソードや肉声を通じ、その人物像に迫る。貧しい労働者階級の家庭で育ったプーチンは、子供のころからの夢であったKGBに入るが、鳴かず飛ばずの中佐止まりだった。その後、ひょんなことからサンクト・ペテルブルクの副市長となり、中央政界に出てとんとん拍子に出世する。長年ノーマークの存在だったために、その経歴には謎も多い。資源依存型の経済運営で国策企業に側近たちを送り込むなど、あらゆる利権をクレムリンで掌握、外交面でも徹底した首脳外交で武器輸出のセールスマンとしても活躍してきた。一方、ジェット機を操縦したり虎退治をしたり、あるいは「国民との対話」という4時間以上のテレビ出演といった派手なパフォーマンスなどをみせるなど、メディア操作にも長けている。--世界の運命のカギを握る「黒い皇帝」の野望の原点がここに。

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2.2 2018年01月29日

プーチン氏はモスクワのクレムリンに隣接する広場で11万人超の支持者の前で涙を流し「われわれは勝利した」と宣言した。ロシア大統領に復帰したウラジーミル・プーチンほど、ユニークかつ異色な指導者は、世界を見回しても稀だろう。 サンクトペテルブルクの貧しい労働者の家庭に生まれ、泣く子も黙るKGB(旧ソ連国家保安委員会)のスパイを経て、2000年、巡り合わせで大統領に就任。12年にわたり世界最大の領土を持つロシアに君臨したが、本人は辞める気はさらさらなく、さらに2期12年の治世を念頭に置いている。 高騰する石油など資源の国策利用が成功し、ロシアに初めて大衆消費社会を実現し、大国の座に復帰させた功がある。一方で、権力の一元支配を推進し、汚職・腐敗が拡大。社会の閉塞感が強まり、昨年末から中流層の反プーチン運動「ロシアの冬」が吹き荒れたことは周知の通りだ。 本書では、この「鉄の男」と呼ばれるプーチンの人物像に迫り、その特異な統治を肉声やエピソード中心に紹介している。 プーチン政治とは、一言でいえばバラマキ政治であり、裏を返せば愚民政治を旨としている。その中で意外だったのは、学生の間でプーチン人気が高いことだった。 その訳は、戦闘機に乗ったり、レーシングカーを運転したり、ハリウッドスターを前に英語の歌を披露するなど、パフォーマーぶりもさることながら、何でも1人で決断し、トップダウン方式で実行させるのがカッコイイという。 著者の人間プーチンとロシアを見る視点は揺るぎない。プーチンは年に一度、国営テレビの生番組に出演し、国民の質問や陳情に数時間、答え続けるのだが、著者は毎年の発言を丁寧に追いかけ、地方の困窮した子供たちの要望に応えたり、庶民の不満に手を打たない地方首長を叱りつけたりする姿を描き出す。 あぶり出されるのは、自らを神や皇帝のような絶対的存在に仕立てる「儀式」という側面だ。 柔道五段のプーチンは、親日家でもある。「私が今日あるのは、柔道のおかげ」「柔道は日本の長い文化伝統が生んだ哲学だ」と公言して憚らない。2人の娘のうち1人は日本語と日本の歴史を学んでいる。読書家でもあり、書斎に日本の文化や哲学に関する翻訳本を置いているという。 「ロシアはソ連崩壊によって、人口の50%、経済力の40%、面積の25%を喪失した」という部分を読めば、保守派や年金世代が抱く心の傷に加え、彼らがなぜ大国の再興を目指す強権的なプーチン氏を支持するのかも、分かる気がしてくる。 今後、プーチンが新たな活路を見出せるのか、はたまた停滞に陥るのか。ロシアはいまその分岐点に立っている。日本にとっては貿易相手国として重要であるし、領土問題や資源開発でもプーチン・ロシアの存在感は増している。     

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