イタリア人と日本人、どっちがバカ?
文春新書
ファブリツィオ・グラッセッリ
2012年9月20日
文藝春秋
847円(税込)
人文・思想・社会 / 新書
長い歴史を誇りながらも、今では「立派な」借金大国ー。敗戦からの奇跡的な復興からアメリカ主導のグローバリゼーションまで。多くの共通点を持つ日伊両国に関して、在日歴20年以上のイタリア人建築家がウィットとユーモアに富んだ比較文化論を展開する。
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(無題)
この書名、冗談みたいですが、イタリア人と日本人どっちがバカか真面目に考えてみました。この時期すぐに思い浮かぶのは、イタリアの財政危機です。イタリア人はノーテンキで何の根拠も無いのに超楽観的に大丈夫と言います。イタリア人は怠け者だから、いや、もしかしたらバカだから、債務危機に陥るようなことになったんじゃないの、と思う日本人は、多いはずです。ところがこんな日本人は、物事をステレオタイプで決めつける思考停止型バカという結論に至りました。 本書はどちらがどんだけバカかという、おバカ論争ではなく、こんなバカなイタリアみたいにはならないでくださいね、という著者のメッセージに満ちています。在日歴20年以上のイタリア人建築家ファブリツィオ・グラッセッリさんは、こう語ります。敗戦後の奇跡的な復興から、近年の政治・経済・社会の劣化、教育制度の危機、そしてアメリカ主導のグローバリゼーションまで、長い歴史を誇りながらも、今では借金大国である日伊両国には多くの共通点が存在します。だとしたら、国家破産に向かう今日のイタリアは、明日の日本の姿なのでしょうか。目からウロコの比較文化論となりました。 本書は、書名からは窺い知れない真面目な内容です。イタリア人の日常生活から、借金財政の実態、南北の格差問題、マフィアと闇経済、メディア王ベルルスコーニの肖像、そしてモンティ政権への懸念まで、イタリアの近代と現代を俯瞰できる本と言えます。 ところで、先のイタリア総選挙はモンティ政権の財政緊縮策に厳しい審判を下す結果となりました。ギリシャに次いで財政危機にさらされ国債金利が急騰、スペインと並びイタリアが債務不履行の瀬戸際に追い込まれたのは僅か一年半ほど前でした。その危機を乗り切ったのは、政治家の経験がない学者、モンティを首相に迎え、党派性を超えた緊縮政策を敢行する政治意思を示したからでした。モンティ政権は、年金支給年齢の引き上げ、不動産増税などの財政再建政策を実行し、金融市場の信認を得ようとしていましたが、そのモンティの中道連合は惨敗してしまいました。 本書を読むと、何故モンティが敗れたのがよく分かります。イタリア国民は、優れた選択をしたのでしょう。イタリアの危機が対岸の火事ではないと思う人が多いためか、本書はよく読まれているようです。実際、両国の危機的状況に至る道筋や背景には、似たところが多いようです。何しろわが国の債務は900兆円で対GDP比190%では、いかに対外債務が少ないとはいえ、この債務をどうやって償還するのか、気が遠くなります。だからと言って強力な指導者の出現を願う現今のわが国の雰囲気は、民主主義の放棄に繋がりかねないと警鐘を鳴らしています。
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