幻の声

文春文庫

宇江佐 真理

2000年4月7日

文藝春秋

682円(税込)

小説・エッセイ / 文庫

本業の髪結いの傍ら、町方同心のお手先をつとめる伊三次。芸者のお文に心を残しながら、今日も江戸の町を東奔西走…。伊三次とお文のしっとりとした交情、市井の人々の哀歓、法では裁けぬ浮世のしがらみ。目が離せない珠玉の五編を収録。選考委員満場一致でオール読物新人賞を受賞した渾身のデビュー作。

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3.1 2018年01月27日

やっぱり読み始めてしまった。髪結い伊佐次捕物余話。本作はシリーズ第一作なので、登場人物の人となりが語られる。先ず「第一章幻の声」では伊三次である。伊三次は、下戸で甘いものには目がない。また鼻もいい。廻り髪結いをしているが、もともとは「梅床」十兵衛の弟子で、十二の時から働いている。「梅床」十兵衛の弟子になったのは、十兵衛の女房・お園が伊三次の実の姉だからだ。だが、十兵衛と折り合いが悪く、それなりの技術を身につけた頃に喧嘩をして飛び出してしまう。御法度の忍び髪結いを働くようになり、自身番にしょっ引かれることになってしまう。ここで出会ったのが不破友之進である。罪を受けるものだと思っていた伊三次だが、不問にされ、廻り髪結いとして働けるようになった。 「暁の雲」ではお文。伊三次の思い人である。文吉の名で深川で芸者にでている。辰巳芸者の名におじず男勝りで伝法な口をきく。だが、この伝法な口調が、なぜかとても色っぽいのだ。とても女性らしいといってもよい。 「赤い闇」では不破友之進。不破友之進は北町奉行所の定廻り同心。口の悪さでは北町奉行所の中で一番・二番を争う。かと思えば寝るのが好きで、若い頃は暇さえあれば寝ていた。若い頃は、ある眠り猫と渾名されていた位だ。この不破の妹のよし乃は北町奉行所の与力に嫁いでおり、立場上、義弟が不破の上司となっている。 この不破の妻・いなみも個性が光る登場人物である。いなみは一時期、吉原の小見世にいたことがあり、縁があって不破の妻女となる。 この三編の捕物話の後は「備後表」。このお話は捕物ではない。捕物余話と題される所以だ。畳表の備後表に絡んだ秀逸の人情ものである。最終章『星の降る夜』は捕物ではあるが、被害者が何と伊佐次である。命の次に大事な開業資金30両が盗まれたのである。盗っ人を無事お縄にする事に成功するが、ここからが涙無しでは読めないお話である。辰巳芸者のお文の啖呵はさもありなんと思うが、ここは不破友之進の妻・いなみの語りが感動的である。地獄を見た女の言葉は、心を動かして余りある。

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