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モップの精は深夜に現れる
文春文庫
近藤 史恵
2011年5月10日
文藝春秋
715円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
大介と結婚した掃除人キリコは、短期派遣の清掃の仕事を始めた。ミニスカートにニーハイブーツの掃除のプロは、オフィスに溜まった人間関係の澱も死角も見逃さず、電器メーカーの子会社に編プロ、モデル事務所の謎を鮮やかに解き明かす。夫・大介が探偵役となる最後の謎は、キリコ自身。読後感温かなミステリ。
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(無題)
天使のようにキュートな女の子の仕事は、その容貌とはかけ離れたプロの掃除人です。そんなキリコがオフィスのミステリーに挑むこのシリーズは「天使はモップを持って」で始まりました。社会人1年生の梶本大介とキリコの掛け合いが楽しかったですね。書類紛失事件を通じてキリコと知り合った大介にとって、以後キリコは何かと気になる存在となるのでした。そしてなんと最後のお話では、大介とキリコは結婚しちゃったのです。しかも大介の母が突然亡くなり、祖母の介護を嫁のキリコが引き継ぐことになりました。 で、この『モップの精は深夜に現れる』は、『天使はモップを持って』の続編にあたり、シリーズの二作目です。前作は大介が働く会社を舞台にキリコが活躍するお話でしたが、二作目からキリコは主婦業を優先して派遣の清掃作業員としていろんな会社で働き、事件を解決していきます。清掃作業員にしか見えない視点で謎を解くのが、本シリーズ最大の面白さです。例えば第1話「悪い芽」では、キリコはシュレッダーのゴミが極端に減った事で、有能との噂がある部長の抱く野望を白日の下に晒しだします。もう一つ、このお話ではキリコが自らの服装について語っている部分があって興味深いので紹介しておきますね。「わたし、自分が間違っていたとは思っていません(中略)わたしは自分が正しいと思っているし、あの人も自分が正しいと思っている。(中略)服装なんて、わたしにとってはそれほど大事なことじゃないし、仕事の前にちょっと着替えて、それで他の人が嫌な気分にならなくてすむんだったら、そうしようと思ったんです」。 さて、これまでのキリコはお掃除の仕事が大好きな小気味好い女性として描かれてきました。ところで、キリコは大介と結婚したんでしたよね。しかもおばあちゃんの介護まで抱え込んでしまった彼女の家庭生活はどうなっているんでしょうか。それが最終章「きみに会いたいと思うこと」で描かれます。主婦と仕事、そして介護となれば誰だって疲れます。キリコが旅行に出たいと言い出しました。気分転換になればと大介は喜んで賛成します。キリコの旅行は一か月にも渡るもので、行き先も明らかではありませんでした。キリコからのメールに書かれた内容を手掛かりに大介は、キリコの行き先を推理します。そのうち大介は、キリコはもう戻ってこないのではないかという思いに襲われるのでした。 夫婦の危機や介護といった重いテーマに入り込むのかと思ったら、とんでもなく明るいエンディングで本シリーズらしい爽やかな読後感を味わえました。本作も楽しいですよ。
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