邂逅の森

文春文庫

熊谷 達也

2006年12月6日

文藝春秋

902円(税込)

小説・エッセイ

秋田の貧しい小作農に生まれた富治は、伝統のマタギを生業とし、獣を狩る喜びを知るが、地主の一人娘と恋に落ち、村を追われる。鉱山で働くものの山と狩猟への思いは断ち切れず、再びマタギとして生きる。失われつつある日本の風土を克明に描いて、直木賞、山本周五郎賞を史上初めてダブル受賞した感動巨編。

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-- 2019年12月15日

熊谷達也「邂逅の森」

秋田の貧しい小作農の家に生まれた富治は、生まれた村がマタギによって成り立っていたこともあって、幼い頃から自然とマタギになった。マタギとは、森の中で獣を捕らえて生活をする伝統的な集団である。 雪を分け入り、獣の跡を追い、そして撃ち取るというシンプルながら充足感のある生活に富治は大いに満足していた。次男だったからいつかは家を出なくてはいけないが、ずっとこうしてマタギとして生活していければいい、そんな風に思っていた。 しかし富治は、幼くして村を追われることになる。女が原因だった。 富治の住む一体を治める地主であり、名士でもあった一家の一人娘に手をつけてしまったのだ。文枝という名のその女に入れ込んだ富治だったが、抜き差しならない状況になり、結果村を追われ炭鉱の町へと追いやられることになってしまったのだ。 そこでも才覚を発揮し、順調に技術を学びいっぱしの炭鉱夫となっていったが、親分に頼まれ別の炭鉱へと行くことになり、そこで初めて弟分を持つことになったのだ。 そしてそこで富治は、また銃で獣を撃つ喜びを思い出すことになる。予期せぬ災害をきっかけにして腹を決めた富治は、世話をしてやった弟分の住む村でもう一度マタギとして生活をしていくことを決めるのだが…。 というような話です。 本作は、史上初めて直木賞と山本周五郎賞のダブル受賞をした作品なんですけど、なるほど確かに骨太で面白い作品だなと思いました。 とにかく500ページ以上のボリュームということで、かなりいろんな話が盛り込まれているんですね。富治がマタギとして山の中を闊歩する描写は当然のこと、まだ故郷の村にいる頃、山にいない時は何をしていたのか、女関係がどうやってごたごたしていったのか、炭鉱に飛ばされ右も左も分からない内にその世界に慣れていったこと、そこで関わった男が縁でまたマタギの世界に戻ったこと、富山の薬売りとの関わり、そして結婚、さらには自分の『息子』がまた出てきたりと、本当にいろんな場面で様々な状況がやってきます。そもそも富治が子供だった頃から晩年までを描いているわけで、とてつもなく密度の濃い物語ですね。 まず山の描写がやっぱりすごいですね。マタギというのは今でも存在しているかもしれないけど、やはり当時と比べたらいろんなことが変わってしまっていることでしょう。山の神様(醜女だと言われている)を怒らせないように、山に入る前は女断ちしなくてはいけないし、何か粗相をしたら水垢離(真冬の雪山でひたすら水を被り続けること)をして清めなくてはいけないという掟がある。山に入ったら山言葉以外使ってはいけないし、どんなことがあっても女の話をしてはならない。また獲物が獲れた後は、伝統的に受け継がれる呪文のようなものを唱えたりと、非常に古臭い理屈によって成り立っている世界です。しかしそれは、一瞬でも気を抜いたらすぐに命を落としてしまうかもしれない厳しい山で培われた山人たちの知恵の結晶であり、それが脈々と受け継がれているのである。 いかにしてクマやアオアシを見つけるか、獲物をいかにして追い詰めるか、どうやって撃つかなど、マタギの専門的なこともどんどん出てきて、正直よくわからない部分もあったけど、それでもマタギについてまったく知らない読者をここまで物語に引き込んでいくのだから、著者の描写力はなかなかのものがあるのだろうな、と思います。 マタギとして生活していたところから一転炭鉱街へと追いやられ、それからもまたいろいろあるわけなんですけど、僕が一番好きなのは、富治がまたマタギとして生活していくことを決め、ある村に住み着くようになるところからの展開です。 ここで富治は結婚をすることになるんですけど、その展開がまたなんとも言えず奇妙なもので、しかもその後の展開もすごいですね。まさかあの人が出てくるとは思わなかったし、しかもあの人がいなくなっちゃうとも思わなかったし、みたいな。あの辺りの展開は本作中でも一番好きですね。特に、『そんなことがわからないような育て方をした覚えはありませんっ』のところでは、思わずうるっと来てしまいました。 最後の最後はなかなか壮絶で、山の男としての人生を全うしたなという感じがします。山に始まり山で終わった富治の人生は、波乱万丈様々ありましたけど、結果的には幸せだったと言ってしまっていい人生なのではないかなと思ったりします。 マタギの話と聞くと、何だか渋くて古臭いイメージになるかもしれないですけど、それほどでもありません。もちろんちょっと前の時代を描いているわけなんですけど、なるほどこんな生き方をしていた人もいたのか、と感心させられるのではないかなと思います。山での生活だけでなく、富治を中心とした様々な人間関係が濃密に描かれていくのも面白いところです。僕は直接は知りませんが、この作品は女性からも評価が高い、とバイト先の人が言っていました。確かに女性にもオススメ出来る作品です。ちょっと長いので手を出しにくいかもしれませんが、読んでみてください。

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