路
文春文庫
吉田 修一
2015年5月8日
文藝春秋
792円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
台湾に日本の新幹線が走る。商社の台湾支局に勤める春香と日本で働く建築家・人豪の巡り逢い、台湾で生まれ戦後引き揚げた老人の後悔、「今」を謳歌する台湾人青年の日常…。新幹線事業を背景に、日台の人々の国を越え時間を越えて繋がる想いを色鮮やかに描く。台湾でも大きな話題を呼び人気を博した著者渾身の感動傑作。
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台湾に新幹線
【決まったぞ。日本の新幹線が台湾を走る!】 窓から差し込む光が病床の妻のひざ元まで伸びていた。 なぁ。覚えているか。 窓の外を流れる景色に目をくれた。 台湾新幹線は山々の間を抜けていく。 膝に置いていた写真を、よく見えるように窓際に立てる。 なぁ。覚えているか。 台湾に新幹線が走るぞってわかったときのこと。 新幹線が開通したら、二人で台湾に行ってみるか。 そういったら、五年も先の話じゃないと君は笑った。 五年なんてあっという間だ。 七十過ぎたおじいちゃんが元気溌剌だとみっともないですよ。 そう言って笑った君は、俺の隣にいない。 見せたかった。 なにより君に見せたかった。 俺の故郷に君の故郷の新幹線が走るところを。 見せたかったんだ。 あの日一日きりの思い出。 ずっと忘れられずにいた。 もう会えないのかと、君からの連絡もなかった。 阪神大震災が起こって、君の出身地の近くだと知って。 僕はいてもいられず初めての飛行機に飛び乗った。 君の無事を信じて。 日本へ行けば君に会えるなんて思ってたわけじゃない。 僕が行くことで何か変わるわけじゃなかった。 君が無事であることを確認したかった。 近くに。せめて近くに。 あれから僕はずっと日本にいる。 忘れた日なんてなかった。 私のうっかりのせいでメモをなくして。 電話するって約束したのに。 あれから数年たって台湾の震災があった。 居てもたってもいられなくて台湾へ飛んだ。 あなたに会えるかなんてわからなかったけれど。 探さずにはいられなかった。 三日間ずっと探し続けてみつからなかった。 あなたの家にもいったけれど、あなたはいなかった。 今はあなたの出身の台湾で新幹線を作る仕事をしている。 あなたに似た人を見たってきいたらそこまでいったり。 名前も年齢も詳しい事なんて何も知らない。 でもあれは運命だったのだと思う。 あなたの見た景色を見ていたい。感じたい。 あれから私はずっと台湾にいる。 九年越しの再会。 新幹線の開通。 長すぎた。あまりにも長すぎた。 運命の出会いは思い出となってしまうくらい、遠かった。 でも、あの出会いがなければ今の僕はなかっただろう。 そう、あの出会いがなければ今の私はなかったと思う。 すれ違う運命。 それでも時は流れていく。 彼らが進む道はどこへ進むのだろう。 窓から見える景色のように、過ぎ去ってしまった時間は元には戻らない。
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