
ある町の高い煙突
文春文庫
新田 次郎
2018年3月9日
文藝春秋
825円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
映画「ある町の高い煙突」 2018年春撮影開始。 2019年春公開予定。 明治38(1905)年、買収によって茨城の地に開業した日立鉱山。やがて鉱山の宿命ともいえる煙害が発生。亜硫酸ガスが山を枯らし、農民たちの命である農作物までも奪っていく。 そこで、立ち上がったのが地元の若者・関根三郎(モデルとなった実際の人物は関右馬允)である。郷士であった名家に生まれ、旧制一高に合格、外交官という夢に向かって進んでいた。しかし、祖父・兵馬が煙害による心労で倒れ、人生が変わる。 こうして、地元住民たちと日立鉱山との苦闘のドラマが幕を開ける。 試行錯誤の末、1914年、当時としては世界一の高さを誇る155.7mの大煙突を建設し、危機を乗り切るのであった。 足尾や別子の悲劇がなぜこの日立鉱山では繰り返されなかったのか。 青年たちの情熱と今日のCSR(企業の社会的責任)の原点といえる実話を基にした力作長篇。
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誇りある行動の先に未来が見える物語
大雄院の高い煙突は子供の頃に慣れ親しんだ郷里の風景だった。日立製作所の企業城下町で育った私は、学校でその成り立ちを習い、日立鉱山についても学んだ。一時期は東洋一の高さを誇っていたと教わった。1993年に倒壊し、3分の1の高さになってしまったときは大学に通っていて地元を出ていたが、そのニュースを知ったときは思いの外ショックを受けていたと記憶している。 この物語は歴史をなぞるようないわゆる歴史小説ではない。もちろん史実に則って煙突建設の経緯を知ることはできるが、煙害の被害者である周辺の村々、とりわけ主人公の住まう入四間村の人々と、加害者である日立鉱山やそれらを取り巻く人々の苦悩の物語であった。 入四間村の関根三郎青年はもともと外交官を目指していたが、周囲の期待に沿う形で煙害問題の舵取り役を担うことになる。若くしてその役を務めるにあたり、ときに役人気質の鉱山の職員に舐められたりもするが、毅然とした態度で振る舞い、道を切り開いていく。なんと清々しいことか。 鉱山の職員である加屋淳平も煙害に対して真摯に向き合い、立場が違えど同じ目標に向かって三郎と共に対策に取り組む。 権威をかさにきたり私利私欲のために活動するような小悪党はしばしば登場するが、三郎青年のひたむきな姿勢の前にすぐさま物語から退場してしまう。 痛快である。 大煙突は史実通り完成する。そこに至るまでには多くの人たちのドラマがあった。この小説は関根三郎青年の話であるが、周囲のひと一人一人の物語でもある。私の祖先もきっと関わりがあったことだろう。 関根三郎のモデルとなった関右馬允氏は昭和の後期までご存命だったとあとがきで知る。決して遠い昔の話ではないのだ。
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