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ある町の高い煙突
文春文庫
新田 次郎
2018年3月9日
文藝春秋
825円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
茨城県日立市の象徴である「大煙突」は、いかにして誕生したか。外国人技師との出会いをきっかけに、煙害撲滅を粘り強く訴えた若者と、世界一高い煙突を建てて、住民との共存を目指した企業の決断。足尾や別子の悲劇を日立鉱山では繰り返さないー今日のCSR(企業の社会的責任)の原点を描いた力作。
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誇りある行動の先に未来が見える物語
大雄院の高い煙突は子供の頃に慣れ親しんだ郷里の風景だった。日立製作所の企業城下町で育った私は、学校でその成り立ちを習い、日立鉱山についても学んだ。一時期は東洋一の高さを誇っていたと教わった。1993年に倒壊し、3分の1の高さになってしまったときは大学に通っていて地元を出ていたが、そのニュースを知ったときは思いの外ショックを受けていたと記憶している。 この物語は歴史をなぞるようないわゆる歴史小説ではない。もちろん史実に則って煙突建設の経緯を知ることはできるが、煙害の被害者である周辺の村々、とりわけ主人公の住まう入四間村の人々と、加害者である日立鉱山やそれらを取り巻く人々の苦悩の物語であった。 入四間村の関根三郎青年はもともと外交官を目指していたが、周囲の期待に沿う形で煙害問題の舵取り役を担うことになる。若くしてその役を務めるにあたり、ときに役人気質の鉱山の職員に舐められたりもするが、毅然とした態度で振る舞い、道を切り開いていく。なんと清々しいことか。 鉱山の職員である加屋淳平も煙害に対して真摯に向き合い、立場が違えど同じ目標に向かって三郎と共に対策に取り組む。 権威をかさにきたり私利私欲のために活動するような小悪党はしばしば登場するが、三郎青年のひたむきな姿勢の前にすぐさま物語から退場してしまう。 痛快である。 大煙突は史実通り完成する。そこに至るまでには多くの人たちのドラマがあった。この小説は関根三郎青年の話であるが、周囲のひと一人一人の物語でもある。私の祖先もきっと関わりがあったことだろう。 関根三郎のモデルとなった関右馬允氏は昭和の後期までご存命だったとあとがきで知る。決して遠い昔の話ではないのだ。
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