アキラとあきら
徳間文庫
池井戸潤
2017年5月17日
徳間書店
1,100円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
零細工場の息子・山崎瑛と大手海運会社東海郵船の御曹司・階堂彬。生まれも育ちも違うふたりは、互いに宿命を背負い、自らの運命に抗って生きてきた。やがてふたりが出会い、それぞれの人生が交差したとき、かつてない過酷な試練が降りかかる。逆境に立ち向かうふたりのアキラの、人生を賭した戦いが始まったー。感動の青春巨篇。
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会社かヒトか
会社にカネを貸すのではなく、人に貸せ】 なぜ、自分はここにいるのか。 なぜ、自分は銀行員なのか。 なぜ、人を救おうとするのか。 彼らを救うことで、本当に救われるのは、自分自身だ。 幼いころの君は、どんな音を聴いていた? 幼いころの君は、どんな匂いをかいでいた? 瑛のそれは、油圧プレス機が立てる規則正しい音。 瑛のそれは、工場から漂ってくるツンとする油の匂い。 それが宝物だったんだ。 人の為でなくカネのために、儲けのためにカネを貸す。 そんな銀行員にはなりたくなかった。 会社がどんな状態かは、数字を見ればわかる。 でも、本当に大切なことは、数字をいくら眺めてもわからない。 それは、人の心。 そして、その胸の内。 カネは人のために貸すんだ。 父さんみたいにならないように、取引先のことを救ってやってくれ。 銀行から見放され、愛していた工場を潰してしまった父。 銀行を心の底から嫌っていたはずの父。 そんな父が、バンカーになった息子にゆった言葉。 救ってやってくれ・・・。 それは父の心の底から出てきた祈りなのかもしれない。 入行して融資部門に配属されてから必至に走り続けてきた。 でも、全部の人を救うことはできなかった。 でも、見捨てるしかなかった会社もあった。 それでも、できうる限りのサポートをして救いたい。 もう、あんな状況に陥る人間を見たくない。 幼いころの君は、どんな音を聴いていた? 幼いころの君は、どんな匂いをかいでいた? 答えのすべては・・・悲しさと懐かしさの入り混じる記憶の中に。 そこにたどり着くまでに、長い年月がかかったとしても。 自分と言う存在の意味について気がつかせてくれるから。 彬と瑛。 同じ社長の息子として生まれるが、 一方は大きな運輸会社、一方は潰れかけの町工場。 境遇の全く違うふたり。 二人の運命が、交差するとき、運命が大きくうねりをあげる。 二人は宿命に打ち勝つことが出来るのか。
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自分の人生を生きる
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(無題)
最近はどういう訳か女流作家の作品ばかり読んでいたような気がする。女流作家の感受性や表現にはどこか理解不能なところがある。それは読者の私が男性であるのだから仕方がない事なのだろう。その点、同性の作家による作品は隅から隅までしっかりと理解できるので、読んでいて楽である。そう、今回は久しぶりの池井戸潤である。 今でこそ企業の資金需要に直接金融で対応するのが当たり前になったが、かつては銀行による間接金融以外は一般的でなかった。だからこの当時、「金融は産業の血液」と言われて過度に保護されていたのだった。また、銀行マンも企業の成長は金融面から支える自分がいればこそ、とのプライドを秘めていた。それが、いつの頃だろうか。儲かりさえすれば何をしても良い、という風潮になって行った。確か、関西系のS銀行が東京に進出したあたりからではなかったろうか。バンカーから単なる金貸しへと堕落して行ったのだった。本書ではその銀行マンの変質がかなり詳細に描き出されている。山崎瑛(やまざきあきら)と海堂彬(かいどうあきら)が産業中央銀行に就職する形で物語が綴られていく。この二人、臥龍と鳳雛である。 そして、物語は別の局面へ。同族会社・東海郵船の内紛騒動である。この会社は海堂家の家業である。海堂家長男の彬は家業を継ぐのを嫌って銀行に就職したのだった。若輩で未熟な弟の龍馬は二人の叔父の謀略に踊らされて、取り返しのつかない経営判断をしてしまう。そして、その尻拭いは彬が引き受けざるを得ないことになる。彬が背水の陣で臨んだ会社経営に次々と襲いかかる難題の数々。それを乗り切るには新たな手法M&Aしかなかった。それを担当するのが、産業中央銀行の山崎瑛であった。
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銀行マンのヒーロー譚
「青春小説」で片付けられるものではない。 銀行のお仕事、企業の財政がよくわかり、それでいて壮大な年月をかけた物語に作り込まれている。 高校生のころに読んでいれば、自分も少しは世の中を知れたのになあと思う。 貧しい家庭で育ち、親の会社の経営破綻という過去があるアキラ。 海運会社の御曹司として育ち、会社を背負う宿命をもったあきら。 2人とも東大卒のスーパーバンカーになり活躍するが、時を経て、あきらは会社の経営不振を救うべく社長に就任、アキラは当社の融資担当として会社再建を手伝う。 「宿命を乗り越える」というフレーズが多く使われる青春小説として書かれていたり、悪役がとことんバカだったり、こんなことってあるの??とフィクションを思わせる部分は多いのだけれど、それ以上に企業と銀行との間の取引駆け引きが面白く大変充実している。教育書を読んでるような気分になった。
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