弥勒の月
長編時代小説
光文社文庫
あさのあつこ
2008年8月20日
光文社
628円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
小間物問屋遠野屋の若おかみ・おりんの水死体が発見された。同心・木暮信次郎は、妻の検分に立ち会った遠野屋主人・清之介の眼差しに違和感を覚える。ただの飛び込み、と思われた事件だったが、清之介に関心を覚えた信次郎は岡っ引・伊佐治とともに、事件を追い始める…。“闇”と“乾き”しか知らぬ男たちが、救済の先に見たものとは?哀感溢れる時代小説。
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(無題)
一言でいうならば、全編に虚無的雰囲気を醸し出している凄まじい時代小説であります。別の見方からすれば、ダークで冷たい味わいのミステリーともいえます。また、時代劇に則して表現すれば、拵えは実直そうだが、抜くと底光りする刀剣を思わせる作品でもあります。 この小説を面白くしている第一のものとして、人物造形が挙げられます。先ずは同心、小暮信次郎がいいですね。着流しに巻き羽織、速足で江戸の街中を闊歩する姿は粋の極みとして見られがちですが、実体は警察機構の最下級官僚に過ぎないのです。しかも、その身分は親子代々固定化し、犯罪捜査にどれだけの手柄を上げても出世は望めないのです。そんな不自由で閉塞された社会にあがらうことなく生きるのが江戸時代の一般的な庶民ですが、信次郎は違います。自分の立場に抗う術はありませんが、何かに八つ当たりせずにはいられない程、常に苛立っているのです。薄汚れたケチな盗っ人の腕を、表情の一つも変えずにへし折るのが信次郎なのです。彼は罪を憎んでいるのではなく、人を厭うているのです。 権力側にあって、これだけ強力な個性を発揮する信次郎に対峙する個性といったら、こちらも並大抵ではありません。遠野屋の主人、清之介です。この男も哀しい男です。妻、おりんの死に際して感情の動きが表面に現れないのです。数々の愁嘆場を見てきた信次郎の岡っ引き伊佐治が、その目を疑うほどでした。伊佐治には、清之介の表情から驚愕も悲哀も他のどんな感情も読み取れませんでした。あまりのことに我を忘れているわけでもありません。魂の抜け落ちた目でもありませんでした。この男には、何かがあるはずです。そんな清之介をもう1人の闇を抱えた男、信次郎が見逃すはずがありません。いいえ、清之介の正体を暴くべく、喰らいついていくのでした。 そうして迎えるクライマックス。見事などんでん返しが待っています。残念ながら胸がすくようなものではありません。あくまでも苦いものです。哀しい闇にとらわれた男たちの生き様は、どこまでも哀しみにあふれています。彼らの心は最後の情景でしかうかがえないのですが、男たちは何を見つけていくのでしょうか。弥勒菩薩に希望の一端を見出している読者としては、次の『夜叉桜』に期待を込めて読み進めるしかありません。
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