
舟を編む
三浦しをん
2015年3月12日
光文社
682円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
出版社の営業部員・馬締光也は、言葉への鋭いセンスを買われ、辞書編集部に引き抜かれた。新しい辞書『大渡海』の完成に向け、彼と編集部の面々の長い長い旅が始まる。定年間近のベテラン編集者。日本語研究に人生を捧げる老学者。辞書作りに情熱を持ち始める同僚たち。そして馬締がついに出会った運命の女性。不器用な人々の思いが胸を打つ本屋大賞受賞作!
みんなの評価(257)
starstarstarstar読みたい
223
未読
197
読書中
38
既読
1667
未指定
1257
書店員レビュー(1)書店員レビュー一覧
みんなのレビュー (21)
辞書ってマジメって面白い
【まじめって面白い】 辞書は必ずしも万能ではない。 かゆいところに手が届ききらぬ箇所があるのも、 頑張ってる感じがして、とてもいい。 完全無欠でないからこそ、 辞書を作った人たちの努力と熱意が伝わってくる、 そんな気がする。 辞書作りって、何年がかり?というくらい途方もない時間と労力がいるんです。 何万語という言葉の用例収集カードが、作られ、保管され、選別され、 採用となった単語だけが、辞書に載るんです。 それは全て、手作業で行われます。 一語一語、言葉を編む人の思いが込められているんですね。 まじめさーん、お客様です。 はい、まじめですが。 なんですと!? 本人も自覚する真面目だと? 自分を真面目だと言ってのける臆面のなさ。 彼が取り出した名刺には。。。 株式会社玄武書房 第一営業部 馬締 光也 まじめ、みつや・・・ はい。まじめです。 彼との出会いはそんな感じだった。 君は「右」を説明しろ、と言われたら、どうする? 方向としての右ですか?思想としての右ですか? 前者だ。 ペンや橋を使う手の方、というと左利きの人を無視することになりますし、 心臓のない方、といっても心臓が右側にある人もいるそうですし、 「体を北に向けたとき、東に当たる方」と説明するのが無難ではないでしょうか。 彼の回答はこんな感じだった。 まじめ君、君は辞書作りに向いている。 君の力を、「大渡海」に注いでほしい。 「大渡海」は辞書編集部で作ろうとしている、新しい辞書の名前だ。 何かを生み出すためには、言葉がいる。 はるか昔、地球を覆っていた、生命が誕生する前の海。 混沌とし、ただうごめくばかりだった液体。 ひとのなかにも、同じような海がある。 そこに言葉という落雷があって、すべてが生まれる。 愛も、心も。 言葉によって象られ、昏い昏い海から浮かび上がる。 言葉は知っていても、 自分のものになっていない言葉を正しく解釈はできない。 辞書作りに取り組むものにとって大切なのは、 実践と志向の飽くなき繰り返しだ。 言葉は、言葉を編み出す心は、 権力や権威とは全く無縁な自由なものであるべきだ。 そうあらなければならない。 自由な航海をする全ての人のために編まれた船。 そういう辞書に「大渡海」がなるように。 大海原に出る舟を編む。 太古から未来へと綿々とつながる魂を乗せて、豊饒なる言葉の大海をゆく船を。 辞書が完成しても、編纂に終わりはない。 時代とともに言葉も変わっていく。 希望を乗せ、大海原をゆく船の航路に果てはないのだ。 普段なにげなく使っている辞書。 辞書の重さ。重たいのは当たり前だ。 何万語一言一言考え抜かれた言葉の重みの集合体なのだから。 たかが辞書。されど辞書。 とてつもない多くの時間と労力の賜物なのである。 辞書はどうやって作られるのか。 どんな風にできあがっていくのか。 どんな苦労があって、どんな充実感があるのか。 好きでなきゃ辞書作りはできないだろう。 出来上がったときはもっともっと好きになる。 そんな辞書作りのお仕事の現場のお話です。
全部を表示ー部を表示いいね1件
未知な日本語と遭遇
日本の言葉の美しさ。 その類稀なる深さ。奥ゆかしさ。 それらを感じることができる三浦しおんさんの作品。辞書を作るまでに何十年というスパンがかかり(三省堂はちなみに28年…)、そこに至るまでに、 •種類、語数、テーマ等の企画。 •用語整理 •語釈 •幾度にわたる校正 そして出版されたと思いきや、時代に合わせて常に改訂をしていかなければならない。そんな辞書ビジネスの大変さと共にやりがいや、楽しみなんかも感じることができた。 前半はかなりの事務作業の。ようで、どの単語を載せるか考えるのは少し地味だった。だけれども、後半にかけてだんだんと語釈や新単語を載せるか否かの判断では、一人一人のその言葉に対するイメージや想いがぶつかり合い、そして結論を編み出していくそんな闘いともチームプレイとも取れるそんなやりとりを見ていて、本当にこの人たちは辞書に人生をかけて、言葉に想いを馳せて取り組んでいるんだと、そんな感動とも尊敬とも取れる感情を抱いた。自分自身小学校5年の中学受験の頃から電子辞書に慣れ親しんでしまったため、あまり接点はなかったが、その正解に行き着くまでに出会う数々の未知の言葉。そして電子機器からは感じることのできない、紙の質感やあたたかさに少し触れてみたいと改めて思った。 そしてこの小説の魅力はなんといっても、全力で自分の夢や目標、そして情熱を注いでいる人たちが何人も登場するところだ。 そして、そうではない人々が最初は嫌悪感や否定感を抱きつつもその魅力に囚われて、最後には同じような境地にたどり着くような、読者も周囲の人も巻き込まれるそんな濁流の如く押し寄せる登場人物たちの底の知れない想いに圧倒される、そんな小説だ。 •辞書一筋の仕事を歩んできた荒木、松本先生 •女性という性別に悩みながらも板前としての修行人生に歩む香具矢 •そして言語学や辞書をこの上なく愛し、日々自分でいつどきも言葉について疑問に思い考え、そして考えを見つけて、不器用ながらもそれを周りに伝えていこうとする馬締 そして、そんな彼らによって変わっていく西岡や岸辺。もともとなんで私が、俺が、こんなことやっているんだろうと、そんな自己否定感に苛まれていた彼らが、本当に純粋に好きな気持ちで辞書作りや料理に励む人物たちを見て、影響されていく。自分も同じように好きになっていく。日本語の美しさに囚われていく。そして時には、ぶつかり合い、助け合い、そして大渡海という舟を編み出し、そしてその言葉の大海原の中に飛び込み、漕ぎ着ける様が本当に面白かった。 上ると登る 右 恋と愛 憮然 ら抜き言葉 ツーカー 切る 西行 犬 島 そんな言葉の数々の裏にいろんな意味や背景があって、それらが混ぜ合わさって一つの言葉になる。改めて日本語の美しさに驚嘆すると共にもっともっと知りたいなと思ってしまう。ビジネス上は曖昧で意思決定を遅くしてしまうような言葉かもしれないけれども、文学や芸術、意思疎通、そしてお気遣いではどの言語も日本語に勝ることはできないだろう。
全部を表示ー部を表示いいね0件
自由な航海をするすべてのひとのために編まれた舟
辞書の編纂に取り組む編集部のメンバー達を順番に主人公に置いて語られる小説。 新しい辞書を作るのにかかる膨大な時間、資金、労力。言葉を言葉で語るとはどういうことなのか。辞書は必ず「正しい」のか。辞書は何故、改訂を繰り返すのか。 辞書作りに必要な作業について、かなり詳細に描かれますが、それだけでなく、初々しい恋物語や、仕事場での劣等感をめぐる克服のストーリーなど、人間のめんどくささが、ときにコミカルに、ときに真剣に描かれます。 章によって語られる視点(主人公)が違うため、辞書作りに対する熱意や経験値の違う人々の視点から、辞書作りを擬似体験することができます。 印象的なのは、辞書編集部の社員、西岡の、他の編集員の情熱対するコメント。 「辞書を愛しているのかというと、ちょっとちがうのではないかと西岡には感じられる。愛するものを、あんなに冷静かつ執拗に、分析し研究しつくすことができるだろうか?憎い仇の情報を集めまくるに似た執念ではないか。」 わたしも、仕事を愛している人々に対して同じような感想を抱いたことがあり、「自分は好きなことは仕事にできないなぁ」などと思ったので、この西岡の発言には共感せざるを得ませんでした。 しかし、そこで、この『舟を編む』の特徴である、主人公交代制のシステムが生きてきます。まさに「辞書作りにのめり込んで生きている」人間の視点を見ることもできるからです。 『舟を編む』、非常に楽しみながら読ませてもらいました。三浦しをんさんの、他の作品を読むのも楽しみです。
全部を表示ー部を表示いいね0件
(無題)
【所感】 なんなんだこいつ(いい意味で)。 【専門知識】 専門的な話を書く時には大きく分けて3タイプある。 ①一般の人に分かる範囲でわかりやすく解説していくゼネラリストタイプ。 ②専門知識を余すところなく手加減なしで降り注ぐスペシャリストタイプ。 ③「なんかよくわかんないけど今敵成敗したわ」な池井戸潤。 今作は①、というか三浦しをんはゼネラリストなのでずっと①である。ゼネラリストだと専門知識がテーマではなくモチーフになってしまう残念さや、②の緻密な描写を逃してしまう惜しさもある。しかし、だからこそテーマは別にあることが多く、完成度次第だがそれはそれでOKです、となることも少なくない。 【テーマ】 情熱、であると感じた。 それ以外がからっきし、病的な執念、周りに熱を与えるといういかにも基本に則った馬締というキャラクターだが、とにかく出会った環境や周りの運が非常にいい。 あの人となりを理解できる嫁をはじめ、きちんと負けを認める秀才、期待とそれに比例したリソースを惜しみなく与える元上司。 輝ける天才に嫉妬しながら読んでいた(環境がどうこう以前に私は天才タイプではないのだけど)。
全部を表示ー部を表示いいね0件
close

ログイン
Readeeのメインアカウントで
ログインしてください
Readeeへの新規登録は
アプリからお願いします
- Webからの新規登録はできません。
- Facebook、Twitterでのログイ
ンは準備中で、現在ご利用できませ
ん。
X

LINE
楽天ブックスサイト
楽天ブックスアプリ
ほーく
未知な日本語と遭遇
日本の言葉の美しさ。 その類稀なる深さ。奥ゆかしさ。 それらを感じることができる三浦しおんさんの作品。辞書を作るまでに何十年というスパンがかかり(三省堂はちなみに28年…)、そこに至るまでに、 •種類、語数、テーマ等の企画。 •用語整理 •語釈 •幾度にわたる校正 そして出版されたと思いきや、時代に合わせて常に改訂をしていかなければならない。そんな辞書ビジネスの大変さと共にやりがいや、楽しみなんかも感じることができた。 前半はかなりの事務作業の。ようで、どの単語を載せるか考えるのは少し地味だった。だけれども、後半にかけてだんだんと語釈や新単語を載せるか否かの判断では、一人一人のその言葉に対するイメージや想いがぶつかり合い、そして結論を編み出していくそんな闘いともチームプレイとも取れるそんなやりとりを見ていて、本当にこの人たちは辞書に人生をかけて、言葉に想いを馳せて取り組んでいるんだと、そんな感動とも尊敬とも取れる感情を抱いた。自分自身小学校5年の中学受験の頃から電子辞書に慣れ親しんでしまったため、あまり接点はなかったが、その正解に行き着くまでに出会う数々の未知の言葉。そして電子機器からは感じることのできない、紙の質感やあたたかさに少し触れてみたいと改めて思った。 そしてこの小説の魅力はなんといっても、全力で自分の夢や目標、そして情熱を注いでいる人たちが何人も登場するところだ。 そして、そうではない人々が最初は嫌悪感や否定感を抱きつつもその魅力に囚われて、最後には同じような境地にたどり着くような、読者も周囲の人も巻き込まれるそんな濁流の如く押し寄せる登場人物たちの底の知れない想いに圧倒される、そんな小説だ。 •辞書一筋の仕事を歩んできた荒木、松本先生 •女性という性別に悩みながらも板前としての修行人生に歩む香具矢 •そして言語学や辞書をこの上なく愛し、日々自分でいつどきも言葉について疑問に思い考え、そして考えを見つけて、不器用ながらもそれを周りに伝えていこうとする馬締 そして、そんな彼らによって変わっていく西岡や岸辺。もともとなんで私が、俺が、こんなことやっているんだろうと、そんな自己否定感に苛まれていた彼らが、本当に純粋に好きな気持ちで辞書作りや料理に励む人物たちを見て、影響されていく。自分も同じように好きになっていく。日本語の美しさに囚われていく。そして時には、ぶつかり合い、助け合い、そして大渡海という舟を編み出し、そしてその言葉の大海原の中に飛び込み、漕ぎ着ける様が本当に面白かった。 上ると登る 右 恋と愛 憮然 ら抜き言葉 ツーカー 切る 西行 犬 島 そんな言葉の数々の裏にいろんな意味や背景があって、それらが混ぜ合わさって一つの言葉になる。改めて日本語の美しさに驚嘆すると共にもっともっと知りたいなと思ってしまう。ビジネス上は曖昧で意思決定を遅くしてしまうような言葉かもしれないけれども、文学や芸術、意思疎通、そしてお気遣いではどの言語も日本語に勝ることはできないだろう。
全部を表示
いいね2件