南青山骨董通り探偵社
光文社文庫
五十嵐貴久
2015年3月12日
光文社
660円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
大手企業に就職したものの、うだつの上がらない日々に塞ぐ井上雅也。ある日、南青山骨董通り探偵社の社長・金城から突然話しかけられた。「探偵になる気はありませんか?」。雅也は訝しみながらも体験入社をするが、厄介な事件に関わることになり…。個性的なメンバーの活躍が、軽快なテンポと極上のサスペンスで繰り広げられる、ベストセラー作家の新シリーズ始動!
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スカウト
私立探偵になる気はありませんか?】 そう声をかけられたのは、 トマトとフレッシュレタスのハンバーガーを 口に入れた時だった。 なぜ自分なのか・・・・ 探偵に人を助けたのを見られていた。 誰かを助けることによって、自分が被るリスク。 それを考えたら、正直やりたくなんてなかった。 死ぬほど嫌だった。 最後まで嫌で嫌で嫌で、逃げようかって。 でも、しょうがなかったんだ。 他に誰もいなかったから。 助けようと思ったわけじゃない。 そんなに立派な人間じゃない。 それでも、やらない者はいる。 やろうと思えばだれにでもできること。 だが、やらない者はやらない。 簡単だ。 背を向けて立ち去ればいい。 誰も責めたり非難したりはしない。 見も知らないジジイが行き倒れたって、 知ったこっちゃない。 すぐ忘れる。 そんなものだ。 でも、君は逃げなかった。 やりたくないことでも、 やらなければならないことはやる。 そういう人間は信頼できる。 だから君だった。 君は仲間として迎え入れるに足る人間だ。 君にもし何かあれば全てを懸けて助ける。 助け合いの精神だ。 ピンチに陥ったときは助けてほしいしね。 何かあったとき、僕という人間を無条件で信じてもらえるか。ミスをしたとき助けてくれるのか。 上司の答えは、 「わからんよ。ミスの程度によるな。 無条件?馬鹿らしい、ケースバイケースだ」 それを聞いて、僕は決心した。 僕は有名で安定した天下の大メーカーを捨てた。 僕を信頼してくれるという、仲間だと言ってくれる、何かあったら全力で助けてくれるという、そんな探偵事務所に入ることにしたんだ。
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