土井徹先生の診療事件簿

幻冬舎文庫

五十嵐貴久

2011年8月31日

幻冬舎

586円(税込)

小説・エッセイ / 文庫

殉職警官を父に持つ令子は、二十四歳にして南武蔵野署の副署長。毎日暇にしているのだけれど、このところ、なぜか動物にまつわる事件が舞い込んでくる。慣れない現場に四苦八苦する令子だが、「動物と話せる」というダンディーな獣医師の土井徹先生とそのおしゃまな孫娘・桃子の力を借りて、フシギな事件を解決していく。心温まるミステリ。

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Readeeユーザー

どうぶつとはなせるかって?

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3.6 2021年10月14日

あなたのお父さんは、立派な人でした】 わたしの父親は警察官だった。 階級は警部、その世界では有名だったらしい。 ノンキャリであるにもかかわらず、難事件を解決した現場担当者として、何度か新聞に載ったこともある。 一介の警部がそういう扱いを受けるの極めて異例である。 父がその代償として犠牲にしたもの。 それは私と母の存在だ。 それと自分の命。 殉職して二階級特進し、警視正となった。 わたしは父に似ているとよく言われるが、のんびりした性格で、大学での就職活動も参加するのに遅れ、なんとかなるだろうと思っていたのだが、まったくもってなんともならなかった。 みかねた母親に「公務員になりなさい」といわれ、母が貰ってきた願書を出し公務員試験を受け、あっさり合格したのだが・・・。 送られてきた書類を見て青くなった。受けた試験は国家公務員1種試験だったのだ。 東大にも入れたし、どういうわけかわたしは、いわゆる成績だけは良かったのだ。 外務省、文部科学省、国土交通省・・・ どこに面接を受けに行っても感触は良くない。 後で知ったことだが、試験に受かった時点で”警察庁”がわたしを入庁させることを決めていたのだ。 「立花警視正の娘は、他の省庁に渡せない」 ということだったらしい。 国家公務員1種試験に受かって警察に奉職したものは、ほとんどの場合、まずは小さな所轄の所長もしくは地方の課長クラスになるそうだ。 キャリア組。 信じがたい話だが、世の中とはそういう仕組みになっているらしい。 南武蔵野署、副署長。 わたしの肩書だ。 配属後1週間、わたしは何をするまでもなく出勤し、何もしないまま帰途についた。 立花警視正の娘を危険な目に遭わせるわけにはいけない、という配慮からの処置だった。 ひたすら暇な時間を浪費する日々。1ヶ月経ってもやることがない。 ある日署長からお願いされたことは、自分を殺そうとしている人間がいる、という。 その体調を崩しているご老人の話し相手になってやってくれないか、ということだった。 警察の大物OBらしく、相手の機嫌を損ねないように、話し相手になって解決してあげてほしい、とのお願いだった。暇で暇でしかたがなかったわたしは、1も2もなく「行きます」と即答した。 【おじいちゃんはどうぶつと話せるんだよ】 ご老人のお話を聞いていると、やはり自分を殺そうとしている人間などいないのではないか、思い込みではないか、と思われた。たいそう頑固なご老人で自分の意見が正しいとこちらの言い分は聞きそうにもない。 思い悩んでいると、ご老人の飼っている犬にはご老人はとてもやさしいことに気がついた。 わたしは犬も高齢なので病気がちになるようだとしか思っていなかった。 だが、犬の往診に来た獣医の土井先生は、 犬の不調からご老人の言い分は本当かもしれないという推理をした。 「犬がね、今日はご飯は食べたくない、といっているんだ」 土井先生はそう言った。 よくよく調べてみると犬のご飯に微量なヒ素が混流されていたのである。 そしてご老人の食事にも。毒物を混流したのは誰か。 そして見事に事件を解決してしまったのだ。 一回り以上も年上なのになぜか一緒にいるとホッとする。 週一回日曜日に喫茶店で先生とお茶をすることが多くなった。 そんな世間話の1割くらいはわたしが警察官があるゆえ、事件の話になってしまう。 困ったときの土井先生。 話を聞いただけで、答えを導きだしてしまう先生。 動物と話せる人間なんて、いるはずがない。 いるはずがないのだが、、、、 この先生といると、もしかしたらこの人なら話せるかもしれない。 そう、思ってしまうのだ。

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