プリズム

百田さんの2作品目である『プリズム』は, 読みやすさに徹底的にチューニングされた作品である. 初めは物語の全体像が把握しにくく, 少し時間を要したものの, 『モンスター』に比べるとスムーズに物語に没入できた印象を受けた. 本作は, 対となる『モンスター』との比較において興味深い対立構造が浮かび上がる. 『モンスター』は外面的な描写に重きを置き, 主人公の設定や心情が緻密に描かれ, 時代の流れに合わせて変化を見せるのに対し, 『プリズム』は内面的側面に焦点を当て, 主人公の設定はシンプルながらも, 現代を舞台に相手の変化を巧みに描写している. また, 一部のレビューで主人公に対する批判的な意見が見受けられる中, 本作では不倫や多重人格への異常な執着ではなく, 純粋な恋愛として描かれていると感じた. 小説内では, 多重人格という病気の特徴が非常に分かりやすくまとめられており, 物語の中で自然にその魅力に引き込まれる. 特に印象的なのは, 交代人格が統合されていく最後のシーンである. そのシーンは, 各人格の終焉, すなわち死として描かれており, 「自分の最後, 意識はどこに向かうのか」という不思議な問いを読者に投げかける要因となっている. 全体として, 『プリズム』は百田さんならではの洗練された文章と構成により, 内面に迫るアプローチが新たな感動を呼び起こす魅力的な作品である.

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