いろは匂へど

幻冬舎文庫

瀧羽麻子

2017年2月7日

幻冬舎

759円(税込)

小説・エッセイ / 文庫

京都・二条で小さな和食器店を営む紫。好きなものに囲まれ静かに暮らす紫の毎日が、20歳近く年上の草木染め職人・光山の出現でがらりと変わる。無邪気で大胆なくせに、強引なことを“してくれない”彼に、紫は心を持て余し、らしくない自分に困り果てる。それでも想いは募る一方。ところが、光山には驚くべき過去がー。ほろ苦く、時々甘い、恋の物語。

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Readeeユーザー

草木染め

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4.3 2021年05月24日

【染まるんだよ誰でも】 京都・二条で小さな和食器店を営むユカリ(紫)。好きなものに囲まれて静かに暮らしていた紫の毎日が、20歳近く年上の草木染め職人・コウザン(光山)の出現でがらりとかわってしまった。らしくない自分に困り果てる。ほろ苦くて、ときどき甘い、叶うの叶わないのかわからない、恋の物語です。 自分の名前、紫。だからか小さい頃から紫の色のものに囲まれていた。子どもにとって、紫といういろは赤やピンクに比べて渋すぎる。でも妙なことに慣れなのか刷り込みなのか、だんだん愛着がわいてくるもので、いつしか紫は私の色になっていた。ちがうかな。私が紫色に染まったのかもしれない。地味だけれど美味しそうな茄子紺色、朝焼けの空のような赤紫色、こっくり深いぶどう色。どれも好きな色だ。 草木染め。あの人に会ってから興味がわいた。 葉っぱや草は黄色く染まるものが多い。自分は緑なのに。不思議。 同じ植物でも、色の出かたは季節や生えている場所によって違う。 これは春の。 日向に生えていたものだから色が濃い。 これは冬の。 ちょっとぼやけているけれど、これはこれで味がある。 草木染めは、この色ってイメージがあっても思ったとおりにはいかない。相手が生きものだから、同じ製法で作っても次も同じ色に染まるとは限らない。一本一本の木や草や花が持っているその色を、もらい受ける。まさに自然の恵み。それを大事に大事に染め上げる。これ、というものにはなかなか出会えないけれど、そこがまた面白い。 彼のどこに惹かれたのか。わからない。 でも、あの日以来、色がかわったのだ。 自分の色は自分で決める、決められる、そう自信を持っていたけれど、彼に会ってから、自信が持てなくなった。紫草は60度を超えると色が変わる。ちょっと熱しすぎたせいでいったん落ち着いているとしても、いつまた鮮やかな色を放ち始めるかわからない。燃え盛るような真紅か、まばゆい黄色か、みずみずしく澄んだ紫か。 染まるんだよ。誰でも。 染まらないなんて無理。みんな、ちょっとずつ染まっていってる。 人と触れ合い関わり合い、様々な出来事をくぐりぬける。そのたびに新しい色が加わる。いろんな色が複雑に重なりあい溶けあって、深い色あいになっていく。その変化は絶えまなく続くのだ。 この恋の行く末は、誰にもわからない。何色に染まるのだろう。きっと予想もできない色。きっと誰とも違う色なんだろう。

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