官僚の反逆

幻冬舎新書

中野剛志

2012年11月30日

幻冬舎

814円(税込)

人文・思想・社会 / 新書

TPP問題をめぐり「外圧を使って日本を変える」と公言する元官僚たち。政治主導と称して公務員制度の破壊を訴える行政改革。国民はこれら「改革派官僚」の言動に喝采を送るが、その本質は、さらなる官僚制の支配と政治の弱体化である。本来、政治家や利害関係者と粘り強く調整することこそ官僚の役割である。それなくして、問題が複雑に錯綜する現代、自由な民主国家は成立しない。日本を国力低下の危機に陥れる官僚たちの反逆を許してはならない。気鋭の論客が、日本を蝕む官僚制の病理に警鐘を鳴らす。

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Readeeユーザー

(無題)

starstarstar 3.0 2018年01月25日

「TTP亡国論」もそうでしたが、本書には考えさせられましたね。アメリカの外圧を使ってTTP導入を図ろうとする官僚・元官僚がメディアでもてはやされています。しかもそのような官僚は改革派として大衆の高い支持を得ています。本書はそのような危うい状況に警鐘を鳴らしています。 著者の主張を簡単に言えば、民主政治には「自由民主政治」と「大衆民主政治」があり、現代の社会を特徴づけるものは「グローバル化」「官僚制化」「大衆社会化」の「三位一体」が成立する大衆民主主義であるとのことです。まずこの辺りの分析がすばらしいですね。大衆の生活を破壊する、いわゆる「改革派」の主張が、なぜ当の大衆から支持されるのかという理由がだんだんと見えてくるからです。 本書では、先ずスペインの政治思想家オルテガが引用されます。オルテガは大衆を批判し、貴族・エリートを擁護しました。彼の定義によれば、大衆とは、「ただ欲求のみを持っており、自分には権利だけあると考え、義務を持っているなどとは考えもしない」、つまり、「みずからに義務を課す高貴さを欠いた人間である」というのであります。 一方で、官僚とはどのような存在なのでしょうか。ここではマックスウェーバーが引用されます。官僚とは非人格的没主観的目的によって動く存在、つまり個人的な考え方や目的は排し、上から与えられた客観的基準によって動く存在であるとされます。客観的であるためには定量化・数値化した目的が必要になります。これはマクドナルドの経営スタイルとも共通します。マクドナルドは「効率性」「計算可能性」「予測可能性」「支配」の4つの特徴をもつ経営スタイルのおかげで大成功を収め、世界中に店舗が広がっています。つまりマクドナルド化とは市場に適用された官僚制化だったのです。つまりグローバル化、大衆化、官僚制化、これらは自分の意見を持たず、客観的な基準を求め、効率、 迅速、支配、画一を求めることで共通するのです。 さらには、ハンチントンが引用され、統治能力の危機をもたらしたのは大衆民主政治であると診断し、大衆民主政治に対して節度が求められました。しかし、大衆民主政治は、新自由主義と結びついて官僚制化をグローバルに推し進めました。その結果はリーマンショックやユーロ危機にみられるような、グローバルな統治能力の危機をもたらすこととなりました。今、新自由主義のプロジェクトが失敗に終わったことが明らかになりました。 突然ですが私はサウナが好きです。何故なら床屋談義を聞くことができる場所が現代ではサウナ からです。時として庶民の知恵や見識に脱帽すら覚えます。ところが、その床屋談義にここの所、違和感と危うさを感じることが多くなりました。メディアの影響が大きいようです。 翻って考えると、そもそも民主主義とは効率の悪いものでなんですね。多様な意見を持つ者同士が粘り強く議論を重ね一つ一つ決めていくからです。時間がかかって当たり前なのです。しかし、これを避けては自由な民主国家は成立しません。ともすれば私達は、民主主義に効率性を求めてしまいがちですが、そこに危険な落とし穴があることを忘れてはならないでしょう。

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