カナリヤは眠れない

書下ろし長編推理小説

祥伝社文庫

近藤史恵

1999年7月31日

祥伝社

680円(税込)

小説・エッセイ / 文庫

変わり者の整体師合田力は、“身体の声を聞く”能力に長けている。助手を務める屈託のない美人姉妹も、一皮剥くと何がしかの依存症に罹っていた。新婚七カ月目の墨田茜を初めて看たとき、力は底知れぬ暗い影を感じた。彼を驚愕させたその影とは?やがて不安が現実に茜を襲うとき、力は決死の救出作戦に出た!蔓延する現代病理をミステリアスに描く傑作、誕生。

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(無題)

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3.3 2018年02月09日

巷に氾濫する「整体」の看板。有象無象あって整体の実体が分かりずらくなっている。少なくとも整体の語を初めて使ったのは野口晴哉である事は間違いない。野口の妻が元首相・近衛文麿の娘である縁もあって現在の整体協会は、細川護煕が会長を務める。整体協会は社団法人であるところから、会員にならなければ「操法」を受けることはできない。この場合、あくまでも「操法」であって「施術」とは言わない。これは野口が自らの活動を「治療」ではなく「体育」であると位置づけたことと深く関係する。そこにある思想は、野口が治療するのではなく、本人が自然治癒力を高めてやがて健康を手に入れるというものである。野口整体は主に活元運動、愉気法、体癖論から構成される。活元運動とは、生を全うしようとする人間の裡にある力をより敏感にするための錐体外路系を利用した自己訓練法である。また、愉気法とは人間がお互いを守ろうとする本能的な「手当て」を発展させ、呼吸法を基礎とした精神集注による気の感応の実践法である。協会には全国津々浦々まで、道場ないし指導室があり、会員はそこで指導を受けることができる。和室を打ち抜いた道場は、清浄な雰囲気にあふれ、音量を絞ったカザルスのチェロが常に流れている。会員は操法の順番が来るまで、活元運動や愉気をしながら静かに待つのである。操法の主体は脊椎の矯正と愉気である。はじめはうつ伏せで脊椎の矯正、次いで腹部への愉気である。この時に先生と会話がなされることが多いが、心の中まで見透かされたような言葉にドキッとした経験は一度や二度ではない。 整体協会の事を長々と書いたのは、この事を言いたかったのである。本書の主人公・合田力のようなカリスマ整体師が小説の中に登場する想像の人物ではなく、現実にいる事を強調したかったのだ。さて、その合田力先生、背中を触っただけで心の病まで見抜いてしまうのだ。先ずは買い物依存症の墨田茜。買い物依存症とは買い物をすると気分が高揚し、一時的に嫌なことが忘れられるので、繰り返し買い物をしているうちに欲しい物を買うのが目的でなく、買い物自体が目的になり、コントロールができなくなるのだ。衝動的に買いたい欲求が抑えられないため、借金を繰り返し、自己破産に至るケースもある。買った後罪悪感にさいなまれ、自己嫌悪に陥るのが一般的だ。 依存症といえば、バイプレーヤーで登場する合田接骨院の美人姉妹、恵と歩。恵はセックス依存症。最近ではタイガーウッズがセックス依存症の名を高めてくれた。そして歩は摂食障害。過食と拒食を繰り返す精神障害だ。合田は彼女ら3人に心理カウンセラーのように寄り添う。 カナリヤというのは、空気が薄いところでは生きていかれない。人もカナリヤと同じ。生きているのに、上手く呼吸が出来ず息苦しく過ごす人がいる。外見は普通でも、心が悲鳴をあげていて、本人すらそれに気づかない。茜は不眠に悩んで合田の元を訪れた。しかし、茜の疾患は根が深かった。たから合田は茜にこう語りかける。「もうすこし、自分のことをいたわってあげてください。あまりにもかわいそうだ」。茜を巡ってこの後にとんでもない展開が待ち受けている。うっかりして本作がミステリーであることを忘れていたのだった。

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