蜩ノ記
葉室麟
2011年10月31日
祥伝社
1,760円(税込)
小説・エッセイ
豊後・羽根藩の奥祐筆・檀野庄三郎は、城内で刃傷沙汰に及んだ末、からくも切腹を免れ、家老により向山村に幽閉中の元郡奉行・戸田秋谷の元へ遣わされる。秋谷は七年前、前藩主の側室と不義密通を犯した廉で、家譜編纂と十年後の切腹を命じられていた。庄三郎には編纂補助と監視、七年前の事件の真相探求の命が課される。だが、向山村に入った庄三郎は秋谷の清廉さに触れ、その無実を信じるようになり…。命を区切られた男の気高く凄絶な覚悟を穏やかな山間の風景の中に謳い上げる、感涙の時代小説。
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お家争いに巻き込まれて10年後の切腹を命じられ、軟禁の間に家譜編纂に携わる主人公を、監視役を命じられた若い藩士が訪ねる場面から話は始まる。この二人の組み合わせで人間愛、武士道、人としての生き方などを物語る。近世の日本人は明治維新と太平洋戦争の2度、信じていたものに裏切られ、傷ついた。それでも復興する道があった。だが、現代は未来に希望が持てない。そういう意味では欲望や情熱というエネルギーが失われた現在こそ、過去最も厳しい時代と言えるかもしれない。乗り越えるのは容易ではない。だが、3・11を経験した今こそわれわれは、何が大切なのかを見定めて、また、個の心や生き方を見つめ直していかなければならない。人は死に際して、それを毅然と受け入れるのではないかと思っている。誰しもいつかは死ぬ。その場に直面すれば、己が生きた、そして残されたものには生きていけというメッセージを何らかの形で残す。大きな悲劇が起きたから物語の最後は幸せにしようではなく、悲劇に向き合う結末にしたかった、と著者は言う。
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