星々たち
桜木紫乃
2014年6月30日
実業之日本社
1,540円(税込)
小説・エッセイ
奔放な母親とも、実の娘とも生き別れ、昭和から平成へと移りゆく時代に北の大地を彷徨った、塚本千春という女。その数奇な生と性、彼女とかかわった人々の哀歓を、研ぎ澄まされた筆致で浮き彫りにする九つの物語。
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(無題)
人生には負のスパイラルが存在するのは確実なようで、薄幸な運命を背負って生を受けた女性が次々と不幸の軌跡を描くのは、私たちの周りにありふれた現実だ。しかし、それら女性をことさら取り上げて小説世界に描くとなる、ことは違ってくる。作者の女性観・人生観がそこから静かに滲み出てくるからだ。作者は塚本千春に手を差し伸べようともしないし、寄り添ったりすることもない。そこにあるのは、いつも冷徹で覚めた視線である。作者が創り出すこのような心象風景は北海道、特に釧路の風土が作り出したものに違いないと私は考えている。一つの土地に定着して農作物を作り続ける農耕社会の濃密な人間関係は存在しないし、人々の考え方はむしろ牧畜民族のそれに違い。土地に執着しない分、人々はダメだとなればサッサとあきらめるし、放浪することを苦にしない。 本書は、塚本千春とその母・咲子、千春の娘・やや子の人生と彼女らと関わったさまざまな人々からの視点で描いた9つの短編連作集である。彼女らは母娘らしい年月をほとんど過ごさず、離れ離れに暮らした女という点で共通している。娘があってもさすらうことをやめなかった咲子。その影に吸い込まれるように、同じようにさすらう女となった千春。そしてクライマックス、やや子が自らの人生をひらくところで、物語は終わりを迎える。 本書の最終章で図書館司書のやや子は一冊の本を手にする。書名は「星々たち」。表紙には、青と黒に二色分解された若い女の顔と銀色のタイトル。著者名は河野安徳。河野はやや子の母・千春が語った半生を小説に仕立て上げた。著者は最後にこう記した。「やや子には表紙カバーの青い色が明るい夜空に見えた。頼りない気泡のような星たちをつなげていくと、女の像がむかびあがる。誰も彼も、命ある星だ。夜空に瞬く名もない星々だった」。ここには作者の人間観が色濃く表れている。
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