演じられた白い夜

実業之日本社文庫

近藤史恵

2012年12月31日

実業之日本社

565円(税込)

小説・エッセイ / 文庫

小劇場界の著名女優・麻子は、夫で演出家の匠に呼ばれ、雪深い山荘へやってきた。山荘には匠によって、初対面である八人の俳優らが集められていた。匠の新作は本格推理劇で、演じる側にも犯人がわからないよう稽古は行われていく。台本が進行するにつれ、麻子を含む女優たちに疑心が兆し、それは恐るべき事件の形を取って表れた。作中劇の中に隠された真相はー。

本棚に登録&レビュー

みんなの評価(5

starstarstar
star
3.14

読みたい

12

未読

10

読書中

0

既読

22

未指定

46

書店員レビュー(0)
書店員レビュー一覧

みんなのレビュー (1)

Readeeユーザー

(無題)

starstarstar
star
3.6 2018年02月09日

餅は餅屋、とはいうものの、作家という商売、つくづく大したものだと感心してしまう。とりわけミステリーの場合は、ほころびのない手の込んだストーリーを創り上げる能力の前には脱帽のみだ。 冬の元ペンションでの演劇合宿が舞台である。ミステリードラマの犯人役を見抜くのは、簡単な事である。探偵役が主役級の役者であれば、準主役の役者が犯人と見当を付ければまず間違うことはない。これを避けて最後まで犯人探しに観客をハラハラドキドキさせるには、配役に一工夫しなければならない。このため演出家である神内匠は、畑違いの人間、無名の役者ばかりを起用するのだった。役者たちに渡された台本は、その日の稽古分のストーリーしか記されていなかった。その台本は、合宿に集まった現実の人間関係、現実の役者の立ち位置を彷彿とさせるものがある。そして、劇中で殺人事件が起きると、劇を演じる役者もひとり2人と死者になっていく。 この作品の面白さは、ミステリーとしての完成度の高さに加えて、人間が描きこまれているところにあるのだと思う。例えば、次のような一節がある。 「自殺なんて過剰な生の裏返しだ。自分の手の中にあるものだけを慈しんで、静かに生きていく事もできるのに」。 「彼らは成功を死に物狂いで求める野獣だった。他人が傷つこうが、自ら命を絶とうが、そんな事はわずかな感傷に流してしまえるのだろう。焼け付くような渇きの気配に、私はめまいさえ覚えた」。 人間をこんな視線で見つめる事ができる人は、一体どんな人なんだろう、と思わず考え込んでしまう。それともう一つ、さすがだなと思わせるのは女流作家ならではの女の情念の描き方である。妊娠や性などの生理現象から人との出会いや恋、夫婦のあり方まで、深く胸に突き刺さってくるようだ。

全部を表示
Google Play で手に入れよう
Google Play で手に入れよう
キーワードは1文字以上で検索してください