友だち幻想

ちくまプリマー新書 79

菅野 仁

2008年3月7日

筑摩書房

814円(税込)

新書

友だちは何よりも大切。でも、なぜこんなに友だちとの関係で傷つき、悩むのだろう。人と人との距離感覚をみがいて、上手に“つながり”を築けるようになるための本。

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-- 2019年12月16日

菅野仁「友だち幻想 人と人の<つながり>を考える」

現在ベストセラーとなっている作品である。 先に書いておくと、本書に書かれている内容は、僕個人としては、「まあそうだよなぁ」と感じるものばかりだった。僕は、本書に書かれているようなことを、既に10年くらい前に自力で考えていたし、5年位前には、他人に対して言語化出来るぐらいにはなっていたと思う。それぐらい、気づいている人からすれば「当たり前」のことが書かれている。 しかし同時に、僕は、本書に書かれているような考え方にたどり着けずに苦しんでいる人も結構見てきた。「周りから浮いてはいけない」「指示されたこと、頼まれたことは全部きちんとやらなければならない」「みんなと出来るだけ仲良くしなければならない」みたいな感覚に囚われすぎていて、窮屈さを感じてしまっている人にたくさん出会った。 何よりも、昔の僕がそういう人間だった。大学生ぐらいまで、僕はそういう側の人間だった。僕は、そういう自分がすごくしんどくて、どうにかしたいとずっと思っていたから、自分なりに思考や環境を無理やり変化させて、どうにか現在のような価値観や立ち位置にたどり着けるようになった。それは、周囲に迷惑を掛けることもあったし、今でも周りの人を不快にしている可能性は十分あるのだけど、しかし、自分の中で、何が一番大事なのかをきちんと捉えることで、周囲の人について「考えすぎること」を止めたのだ。 僕にとって何が一番大事なのか。それは、「自分の考えをきちんと持つこと」だ。 別に、「他人の意見を一切受け入れない」などと言いたいのではない。でも、「自分の考え」というものがちゃんとないまま他人と関わると、どうしても侵略されてしまう感覚がある。だからこそ、他人との距離感を明確に取ってでも、「自分の考え」をきちんと持った方がいいと思ったし、そのためにはどうすべきかをずっと考えてきたのだと思う。 本書では、著者が提示する問題意識はこんな風に文章化されている。 『身近な人との親しいつながりが大事だと思っていて、そのことに神経がすり減るぐらい気を遣っている。なのにうまくいかないのは、なぜなのでしょうか?』 これは、現代を生きる多くの人が抱いている問題なのではないかと思います。そして、この問題への対処はなかなか難しい。それは、僕自身がかつてそういう人間だったからこそ、実感として分かる部分もあるからそう言えます。 その原因分析として、色々書いているんですが、要約するとこの文章がよくまとまっていると思います。 『一人でも生きていくことができてしまう社会だから、人とつながることが昔より複雑で難しいのは当たり前だ』 昔と今では、特に学校で「当たり前」のように存在する関係性というのがまったく変わってきているのに、表向きのやり方だけ昔のものを踏襲しているからみんな苦労しているのだ、ということです。本書では、「一年生になったら、友だち百人できるかな」という有名な歌詞について疑問を呈していますが、確かにその通りで、昔なら「友だち百人できるかな」という問いかけはまだ成立していたのだけど、現在では、様々な社会状況の変化からそれが成立し得ないのだ、と指摘します。 ではどうすればいいのか。それについては本書では、同じ内容を繰り返し繰り返し違う文章で書いています。恐らく、本書の中で最も重要な主張だろうし、僕自身も強く共感するので、該当する文章を目につくだけ抜き出してみます。 『基本的な発想として、共同体的な凝縮された親しさという関係から離れて、もう少し人と人との距離感を丁寧に見つめ直したり、気の合わない人とでも一緒にいる作法というものをきちんと考えたほうがよいと思うのです』 『つまり、現代社会においては、「気の合わない人」といっしょの時間や空間を過ごすという経験をせざるを得ない機会が多くなっているのです。だから「気の合わない人と一緒にいる作法」ということを真剣に考えなければならないと思います』 『そのためには、「気に入らない相手とも、お互い傷つけあわない形で、ともに時間と空間をとりあえず共有できる作法」を身につける以外にないのです。大人は意識的に「傷つけあわず共生することがまず大事なんだよ」と子どもたちに教えるべきです』 『ちょっとムカツクなと思ったら、お互いの存在を見ないようにするとか、同じ空間にいてもなるべくお互い距離を置くということしかないと思います』 本当に、その通りだと思います。僕も普段からこのことをとても意識して行動しています。 「気の合わない人」が目の前にいる場合、現代人の多くは「自分の視界から排除する」方向性で動くように思います。学校でのいじめや、ネット上の炎上などの多くは、そういう意識から生まれているように僕には感じられます。でも、はっきり言って、そんな行動にはほぼほぼ意味はない、と僕は感じます。だって、「気の合わない人」なんて、どこにもかしこにも必ずいるからです。「気の合わない人とは絶対に関わりたくない!」ということであれば、引きこもるしかないでしょう(まあそれで引きこもってしまう人も実際には多いのかもしれませんが)。 普通に社会の中で生きていくのであれば、必ず「気の合わない人」は現れます。そして、「気の合わない人」を排除しようとすれば、集団全体に余計な歪が生まれて、結局、その集団に属している自分自身まで不快な思いをする羽目になる、ということが多いと思います。だからこそ、「気の合わない人」とどう関わっていくのか、という振る舞いを考える必要があるわけです。 ただ、現代人にはこれは難しいですよね。何故なら、ネットが広がったお陰で、「気の合う人」をいくらでも簡単に探せる時代になってしまったからです。それ故に、「気の合わない人」と関わらなくても他人との接点を持てるようになってしまったし、わざわざ我慢して「気の合わない人」と接する努力をしようなんていう人はどんどん少なくなってしまうでしょう。 また本書では、著者が「阻害語」と名付けた言葉遣いにも問題があると指摘しています。例えば、「ムカツク」「ウザい」のような言葉を頻繁に使う若い人に対して、著者はこんな懸念を抱きます。 『つまり、自分にとって少しでも異質だと感じたり、これは苦い感じだなと思ったときに、すぐさま「おれは不快だ」と表現して、異質なものと折り合おうとする意欲を即座に遮断してしまう言葉です。』 また、「カワイイ」という表現に対してはこんな風にいいます。 『たとえば、自分にとって好ましいと感じる対象を、ほとんどすべて「カワイイ」という語で間に合わせてしまうということは、そうした対象がそれぞれに持っている特徴の間の微妙な差異を感覚できない鈍さを、知らず知らずのうちに帯びてしまうことにつながると思うのです』 僕にも昔からこういう感覚があります。以前僕は職場で、ある大学生のアルバイト二人が、会話の4割ぐらいを「アレ」で済ませているのを聞いたことがあります。二人の間ではそれで通じているので、「気の合う人」同士のやり取りとしては何の問題もありませんが、しかしそれは、他の人には通用しません。そういう感じで、仲間内でしか通用しない言葉(仲間内では通用してしまう言葉)ばかり使い続けていると、物事を捉えて表現する力も衰えるし、自分の感情を認識して言語化する力も失われていきます。そうなればなるほど、「気の合わない人」とは、「言葉が通じない」という根本的な理由によってコミュニケーションが成立しなくなり、そのせいでさらにお互いの距離が離れていき、共存できない、ということになっていきます。 その対策として、本書では「読書」を勧めています。僕は書店で働いているので、まあ贔屓もありますが、でも確かに「読書」ほどコミュニケーション能力を高める簡便な手段はないな、と感じています。何故なら、本書でも指摘されている通りですが、「読書」というのは著者と「対話」をすることであるし、また、直接的なコミュニケーションに依らずとも、世の中に多様な価値観・考え方があるということを知ることが出来るツールだからです。読書とコミュニケーション能力というのは、一見無関係のように思えますが、実はコミュニケーション能力を高める一番の近道が読書だと言えるかもしれない、と僕は考えています。 本書には、学校の先生に向けた提言も様々になされています。基本的な発想は、「みんなが仲良くなれる、なんていう幻想は持つべきではない」というものです。そういう幻想を持てば持つほど、いじめはなくならないし、子どもが危害を加えられる環境を維持してしまうことになると指摘します。それよりは、全員が仲良くなる必要はない、気が合う人が見つかればラッキーなんだ、ぐらいでいいんだということを教え、生徒同士がそれぞれの人と適切な距離を保ったまま関わることが出来るようにクラス運営をすべきだ、と主張します。うん、そんな風にやってもらえると、まだちょっとは楽かな、という感じはしますね。 社会学の教授のようですが、中高生でも理解できるだろう平易な言葉で語りかけるように伝えようとしてくれる作品なので、非常に読みやすいと思います。生徒自身ももちろんですが、親・教師なども是非読んで欲しいなと思います。

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みんなのレビュー (3)

草野雅宗

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3.5 2019年11月21日

人間関係について考える

ちくまプリマーなので、とても読みやすく短時間で読了できる。 中高生向けということではあるが、インスタグラムやTwitterと いったSNSが溶け込む現代を生きる人にとっては避けがたい 人間関係に関する理解を促す良書だった。 距離感の測り方や人との付き合い方を見直すきっかけになる。 みんな仲良くという学校教育の強制に違和感を感じていた 私にとっては著者の考えに賛同できる部分が大きく、 あくまでも社会的な交流としてお互いを尊重するということ、 深く関わることばかりが正解ではなく、傷つけ合わない適度な 距離感を持って関係を保つことの意味を納得させられる。

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Readeeユーザー

starstarstarstar 4.0 2018年12月10日

人との距離感に困ったときに。

友達との関わり方についての著作であるが、教員や教育現場のあり方についても多く書かれている。 時代の移り変わりと共に、ふさわしいあり方も変わっているのだろう。人は他人という、ある程度距離をとった感覚が必要。

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Haba Masato

starstarstarstar 4.0 2018年06月03日

小中学生の悩んでる子は是非読んで欲しいです(*^ω^*)

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