この女
森絵都
2011年5月31日
筑摩書房
1,650円(税込)
小説・エッセイ
甲坂礼司、釜ヶ崎で働く青年。二谷結子を主人公に小説を書いてくれと頼まれる。二谷結子、二谷啓太の妻。神戸・三宮のホテルに一人で住み、つかみ所がない女。二谷啓太、チープ・ルネッサンスを標榜するホテルチェーンのオーナー。小説の依頼主。大輔、甲坂礼司に小説書きのバイト話を持ってきた大学生。礼司に神戸の住まいを提供。松ちゃん、釜ヶ崎の名物男。礼司が頼りにし、なにかと相談するおっちゃん。敦、二谷結子の弟。興信所経営。結子のためなら何でもする直情型の気のいい男。震災前夜、神戸と大阪を舞台に繰り広げられる冒険恋愛小説。3年ぶり、著者の新境地を開く渾身の長篇書き下ろし。
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(無題)
読了後に「面白かったか」を自問してみたが、正直なところは「?」であった。仮にレビューに書くものがあるとすれば、それは「幸せって、なんだろう」ということであろうか。 人は何のために生きるのか、それは幸せになるためである。ところが、幸せを手に入れるのがそれほど簡単で無いところに、人生の難しさがある。なぜなら、幸せの実態はその人によって違うからである。例えば本書に登場する教師は、休日に家族で食べるオムライスの味が幸せの味と断言している。ところが、高級ワインとフレンチレスランでの食事に深い満足感を味わう人がいるかも知れない。これは、満足度が同じであれば、あとは欲望の強さの差である事を指している。より強い欲望を満足させることができるのは富の力である。だから、お金があれば幸せの大部分を手に入れることはできる。 それでは、例えばハンデキャップを持って生まれてきたとしたらどうだろう。あるいは、偏った人格の親の元に生まれてきたら、どうだろう。本編の主人公・礼司は釜ヶ崎の日雇い労働者である。釜ヶ崎に流れてきたのは、左右盲、識字障害でまともな就職ができないからだ。また、結子は幼いころに父を亡くし、母親は難波のパチンコ王・桜川一郎と再婚。桜川に襲われる気配を感じ14歳で家出し売れっ子ホステスになる。釜ヶ崎では、もう1人大輔。大学生の身ながら、親にマンションの一室をあてがわれるほど、経済的には豊か。しかし、オウム真理教と思しき宗教団体に出家。彼らの幸せはどこにあるのだろう。
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