れんげ野原のまんなかで

創元推理文庫

森谷明子

2011年9月30日

東京創元社

770円(税込)

小説・エッセイ

新人司書の文子がこの春から配属されたのは、のんびりのどかな秋葉図書館。ススキ野原のど真中という立地のせいか利用者もまばら、暇なことこのうえない。しかし、この図書館を訪れる人々は、ささやかな謎を投げかけてゆく。季節のうつろいを感じつつ、頼もしい先輩司書の助けを借りて、それらの謎を解こうとする文子だが…。すべての本好き、図書館好きに捧げるやさしいミステリ。

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-- 2019年12月27日

森谷明子「れんげ野原のまんなかで」

本作は連作短編集なので、まず設定だけを書こうと思います。 秋庭市のはずれ、ススキの生い茂る野原のど真ん中、なんでこんなところに、と誰もが口を揃えていいそうな場所に、文子の働く図書館はある。辺鄙と言ってもおかしくない場所にあるので、来館するお客様は少ないのだけど、それでも文子は、本好きの日野や能勢らとともに、愛する本たちに囲まれながら図書館という場所で働いている。 土地の提供をしてくれた秋葉さんがふらりとやってきたり、先輩の一人である能勢が勤務中にグースカ寝てたりと、なかなかアットホームな図書館ではあるのだけど、でもどうにも最近変なことが多くなってきた。その変わったことを、普段グースカ寝ている能勢が鮮やかに解きほぐす。 というような設定ですね。では、それぞれの短編を紹介しようと思います。 「霜降―花薄、光る」 どうやら図書館を舞台に度胸試しみたいなものが流行っているみたいだ。閉館間際の図書館のあちこちに隠れて、閉館後まで居残ってやろうという小学生が最近多いのだ。同じ小学校の面々らしいのだけど、顔ぶれはいつも違う。大抵は図書館員の誰かがみつけて追い出すのでまあそんなに問題というほどでもないのだけど。 それと、変わった落し物も増えている。汚い下着や靴下、水筒なんてのはまだいい方。極めつけはギターケースである。しかも、中身はギターではなくカップラーメン。なんなの、これ? 「冬至―銀杏黄葉」 文子はどうにも、寺田さんが視界に入ると緊張してしまう。今はこう退官されたとは言え、元は文子の大先輩である。まあ、別に失敗を指摘されたりするわけではないんだけど。 毎週水曜日午後三時に来る深雪さんというお年寄りがいる。循環バスの停車地の一つにこの図書館も入ったために、普段はなかなかこられないご老人が増えてきたのだ。そのふんわりした雰囲気からいつも気に掛けてはいたのだけど、その深雪さんが「あら」と声を上げる。どうやら、読んでいた本の中から、何かの絵本をコピーしたような紙が出てきたのだ。まあ、なんだかよくわからない。誰かの忘れ物かもしれない。 その後、洋書の絵本コーナーへ行ってみると、誰かが配架をぐちゃぐちゃにしてしまっている。なんとなく頭文字を繋げると暗号になりそうなんだけど。って、誰がなんのために? 「立春―雛支度」 図書館にいつもふらりとやってくる秋葉さん。その秋葉さんが一枚の紙を持ってやってきた。秋葉さんは酒店からスタートしたコンビニを経営しているのだけど、そのコピー機に挟まっていた忘れ物らしい。さてそんな紙切れを何故図書館に持ってきたかと言えば。 それはその紙には、個人の名前や電話番号住所とともに、本のタイトルが記されていたからである。だから、図書館に関係あるだろう、と。 しかし、図書館では断じてそんなデータを紙媒体にして残すわけがないと文子は強行に主張した。まあとにかく、書かれている電話番号に確認をしてみるのだけど、なんと皆、図書館に来たことがない、という人ばかりだったのだ。 つまりこういうことだ。誰かが、別人の名前を騙って会員証を作り、それで本を借りている。ここまでするということは、借りた本を返すつもりがないということだろう。高価な美術書だ。これは困った。 しかし一体どうやって、そんな個人情報を入手できたんだろう? 「二月尽―名残の雪」 大雪に見舞われた秋庭市。こういう時でも公共の施設というのは、定刻通りに開けなくてはいけないのが大変だ。その大雪の中図書館にいるのは、文子とアルバイトの大学生の二人だけだった。 市長から、今日は大雪だから図書館閉めてもいいよ、という連絡があった後、さて自宅に帰れそうもない私は図書館にでも泊まろうかしら、と思っていると、秋葉さん登場。能勢に言われて、文子を自宅に泊めてあげよう、ということらしい。 そんなわけで秋葉さんの、もう冗談みたいに広い家に泊まらせてもらうことにしたのだが、そこで秋葉さんの「雪女」の話を聞くことになった。まだ秋葉さんが子供だった頃の話、外から来たお客さんが翌朝になるとどこにもいなかった。雪に足跡がない。居間には水で濡れたような跡がある。あれは雪女だったんだろかなぁ。 その話は能勢もよく聞かされるようで、文子が話を振ると、秋葉さんには内緒だという条件で、その雪女の謎を解明してくれる。 「清明―れんげ、咲く」 秋葉さんの思いつきで、図書館周辺のススキを狩り、そこにれんげそうを植えた。これがなんとも綺麗だ、ということで、取材は来るはお客さんは増えるわで、図書館としては嬉しい悲鳴である。 そんなある日、図書館内で一冊の古びた本が見つかった。そこの図書館の蔵書ではない。もう廃校になった中学校の図書館の本だった。なんだってこんなものがうちに紛れ込んでいるんだ。 一方で、記者だという男は、かつてのある死亡事故の話を追っていた。れんげそうの野原の脇の石に幽霊が出る、という噂を発端にした調査だったのだけど、その関係者と知り合いだったかもしれないというその記者は熱心だった。 れんげそう咲きみだれる図書館で巻き起こる最後のお話。 大体こんな感じですね。 この本は、すごくよかったですね。 いわゆる「日常の謎」系のミステリで、まあ謎自体は大したものではないというかささやかなものなんだけど、それが図書館という場所ときちんと結びついているということと、それに関わる人が魅力的だったのとで、とても雰囲気のいい話になっていました。 図書館を舞台にした小説というのはなかなかないと思うので、どう話が進んでいくんだろうと思ったものだけど、図書館の仕事そのものも楽しそうだし(まあお役所だってところはすごい嫌だけど)、趣味は合わないかもしれないけど本好きの人が一杯いるし、ちょっと羨ましい感じはしますね。それに図書館というのは、考えてみれば、無料でどれだけいても誰にも何も言われないというなかなか稀有な施設なわけで、確かにそういう場所でなら何かしらいろいろ起こってもおかしくないかもしれないな、と思いました。 ミステリ的な部分だけではなく、図書館を中心にした人間関係も面白くて、そんなに多くの人間が出てくるわけではないのだけど、ちょっとした描写でうまく人間を切り取っていて、うまいな、と思いました。 話として好きなのは、「霜降―花薄、光る」の度胸試しと「二月尽―名残の雪」の雪女ですね。「立春―雛支度」は、ラストの説明がちょっと無理があるような気がしてしまいました。 れんげそうというところにもちゃんと意味があったりして、丁寧に物語を作っているのだな、ということがわかる作品でした。これは是非読んでみてください

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