高齢者がん治療エビデンス&プラクティス

滝口裕一 / 礒部 威 / 津端由佳里

2021年8月6日

南江堂

6,930円(税込)

医学・薬学・看護学・歯科学

総論では高齢者を診療する上で必要な知識を整理し,高齢がん患者の特徴と治療・ケアの方法をまとめ,各論では実臨床に役立つ最新の治療について記載.老年医学と臨床腫瘍学の知識を併せ持ったエキスパートが,高齢者がん治療のエビデンスとこれまで集積したプラクティスを各種がんごとに提供した,がん治療に関わるすべての医師必携の一冊. 【書評】  日本人の悪性腫瘍(がん)による年齢調整罹患率および死亡率は年々減少傾向であるが,粗死亡率でみると死因の第1 位は1981 年以降「がん」であり,現在も上昇傾向にある.これは罹患率が高い高齢者の人口に占める割合(高齢化率)が年々高くなっていることに起因する.「がん」が医学的にはもとより社会的にも高齢者疾患であるといわれるゆえんである.このため,がん診療に携わる医療従事者には医学とりわけ疫学や生理学的な高齢者の側面と,社会学的な側面を理解する必要がある.臓器別「がん」の診療にあたっては学会が作成する診療ガイドラインが標準医療を実践するうえで重要な指標になるが,このような高齢者の医学的,社会学的な特性を加味した指針にはなっておらず,現場の医療従事者の裁量に任せられるケースがほとんどであった.そこで新しい学術領域として老年腫瘍学分野が注目されるようになり,最近では『高齢者のがん薬物療法ガイドライン』が策定されるなど,老年腫瘍学分野の必要性とその理解が徐々に浸透してきた.  本書はこのような背景のもとに国内の数少ない高齢者がん医療に詳しい専門家によって企画,編集,そして執筆された.総論では,老年医学の基礎知識と高齢がん患者の治療に必要な評価やケアのスキルについてまとめられた.各論では臓器別がん領域における高齢者の治療の実際について,認知症や,社会的支援制度について取り上げられた.老年腫瘍学分野は歴史が浅く,個々の項目は必ずしも高い医学的エビデンスに裏打ちされていないが,現時点では最も包括的な高齢者のがん治療の参考書であり,医療従事者が目の前の患者にとるべき対応の糸口が見つかるはずである.  最近,がん治療はゲノム医療の導入により主に腫瘍の生物学的個性に基づく個別化が急速に進みつつある.しかし今後は,将来の個別化がん医療は,加齢やマイクロビオームなど患者の宿主要因を分子レベルで解明し,その知見を腫瘍の特性と統合して診断・治療を実施する時代,いわゆる未来型医療の時代に進むはずである.この未来型がん医療の研究開発を進める過程で老年腫瘍学分野が今後取り組むべき課題は何か,本書の行間には多くのヒントが散りばめられており,多くの研究者はそれに気がつくであろう.  本書は,がん治療医のみならず,将来,高齢者のがん医療を研究開発する研究者の座右の書として,ここに推薦するものである. 臨床雑誌内科129巻3号(2022年3月号)より転載 評者●東北大学大学院医学系研究科臨床腫瘍学分野 教授 石岡千加史

本棚に登録&レビュー

みんなの評価(0

--

読みたい

0

未読

0

読書中

0

既読

0

未指定

3

書店員レビュー(0)
書店員レビュー一覧

みんなのレビュー

レビューはありません

Google Play で手に入れよう
Google Play で手に入れよう
キーワードは1文字以上で検索してください