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なぜ日本だけが中国の呪縛から逃れられたのか
「脱中華」の日本思想史
PHP新書
石平
2018年1月15日
PHP研究所
968円(税込)
人文・思想・社会 / 新書
なぜ日本は中韓から超絶した素晴らしい国になったのか。その秘密は、中華文明と果敢に対峙しつづけた日本思想史にあった。歴代の中華帝国は「中華文明」を振りかざし、周辺国に圧倒的な影響力を及ぼしてきた。しかし日本だけは、決して呑み込まれなかった。聖徳太子、最澄、空海、伊藤仁斎、荻生徂徠、本居宣長はじめ、日本の偉大な思想家たちは何を考えたのか?そして日本人は、いかに「中華」を完全に排除し、世界でも類を見ない日本文明の思想的高みに至ったのか?対中関係という視点から鮮やかに浮かび上がる、独創的かつ驚愕の日本思想史入門。
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(無題)
本書を形を変えた日本人論と読むこともできる。日本に帰化した中国人・石平が日本人あるいは日本人の精神性について思索したり研究した成果を著したものだからだ。日本人の思想への視点は常に中華思想との対比に置かれているのは、石平の出自からいって当然だ。本書の副題『脱中華の日本精神史』、これが本書の内容を的確に表現している。では、『なぜ日本人だけが中国の呪縛から逃がれられたのか』の書名は、おそらく出版社の売らんかなの意欲が表出したのであろう。 さて、古代・大和朝廷にとって喫緊の課題と言えば、中央集権制法治国家の建設であった。それは海の向こうの大陸・中国が覇権を拡大した結果、我が国でも侵略の不安がジワジワと高まったからであった。そして新国家建設に巨大な中華帝国に範を見出すのはごく自然のことであろう。こうしてして律令制による法治国家が確立されたのだった。ところが、中華帝国を規範とする国家制度を導入するにあたって、科挙と宦官制度は取り入れていない。それはなぜなのか。ここが面白いところでもあり、またその謎解きは楽しくもある。 本書では宦官には触れていないので、それは置くとして、仮に中国と同様に科挙制度を取り入れたとしたら、どうなっていただろうか。高級官僚を目指す人々の間では、四書五経の学習熱が高まるだろうし、ひいては一般の人々の中にも儒教が浸透していくのは火を見るより明らかだ。儒教は中華皇帝を中心に据えた社会システムだから、我が国としては大変に具合の悪いことになる。そこで和魂洋才ならぬ和魂華才、すなわち思想性を排除したシステムだけを導入したのだった。 我が国にほぼ時を同じくして伝わった仏教と儒教。儒教を避けたのには、それなりの理由があったのだ。中華帝国に組み込まれるのを避けたがゆえであった。一方で国論を二分してまで仏教に肩入れしたのは、世界宗教の旗印を掲げて儒教の中華帝国に対抗するためであった。 こんな風に見ていくと、なるほどと得心できる。日本という国土、単一民族の中で育った我々では空気みたいに当たり前のことがらも、出自が違うとまた違う景色に映るのだと感心させられる。その点では、大変に面白い一書である。
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