CIAと戦後日本
保守合同・北方領土・再軍備
平凡社新書
有馬哲夫
2010年6月30日
平凡社
836円(税込)
人文・思想・社会 / 新書
占領期以後、アメリカは日本の何に注目し、どこに導こうとしていたのか。保守合同、日ソ国交回復交渉、再軍備、内閣情報調査室の設立…。「戦後体制形成」の重要局面に、アメリカはどのように関わったのかー。二〇〇〇年代に公開されたCIA文書を基に、戦後体制形成の舞台裏を探る。
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(無題)
まず、戦争には軍事戦と政治戦、心理戦の三つの側面があることを認識しなければならない。圧倒的軍事力を背景に敵対国の兵士を大量殺戮し、国土を破壊し尽くしたからといって、戦争に勝ったとは言えない。いい例がアメリカである。イラクやアフガニスタンで戦闘では勝ったが、当初政治目的を達成できなかった以上、戦争に勝利したとは言い難い。ある目的を達成するために政治工作や交渉を行うことを政治戦と言う。例えば日ソ国交回復交渉に見られるように、政治交渉によって領土を広げたり削ったりすることもできる。だから、軍事戦とあわせて政治戦にも勝利することが必要だ。また政治交渉や政治工作を有利に運び、その成果を永続化させるためには、心理戦が必要となる。マスメディアの操作やプロパガンダによって国民の感情や意識をコントロールし、政治交渉と政治工作の下地を作ることだ。 太平洋戦争と言う軍事戦に勝利したアメリカは日本を占領した後、政治戦と心理戦を展開したのだった。それは、日本を共産主義に対する防波堤にすること、また占領終了後、再軍備させること、さらには安定的な親米保守政権の基盤を作るために保守勢力を糾合させることを目指した。これがその後「戦後体制」と呼ばれるものの根幹になっていったのである。アメリカはこれらの目標を達成するために舞台裏で政治工作と政治交渉を行った。その際に主体的に動いたのが、CIAであった。だから、安倍首相の言う戦後レジュームが何たるかを知るには、戦後のCIA工作活動を知らなくてはならないことになる。これは戦後長い間、秘密にされてきたが、アメリカの公文書は一定期間を経過すると公開されるルールがある。本書は公開された公文書からCIAが戦後日本で何をしたのかを読み解くものである。 本書で主に取り上げられているのは重光葵、野村吉三郎、正力松太郎、緒方竹虎などであるが、ここでは彼らをCIAのエージェントと決めつけてはいけない。重光葵の項では北方領土問題の経緯が語られ、野村吉三郎による海軍再建は海上自衛隊誕生に至る経緯である。正力松太郎の項では、通信・放送を担うマイクロ放送網が当初、正力松太郎の日本テレビ放送網で起案されたが、最終的には電電公社に落ち着いた経緯が詳細に述べられる。緒方竹虎の項は、我が国諜報機関(内閣調査室)創設の経緯である。やはり、これらを知っているかどうかが、現在を読み解く能力に大きな差を生じさせることになる。
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