きみはいい子
中脇初枝
2012年5月31日
ポプラ社
1,540円(税込)
小説・エッセイ
夕方五時までは家に帰らせてもらえないこども。娘に手を上げてしまう母親。求めていた、たったひとつのものー。それぞれの家にそれぞれの事情がある。それでもみんなこの町で、いろんなものを抱えて生きている。心を揺さぶる感動作。
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(無題)
ホブラ社はいい本を出していますね。本書は、虐待を題材にした連作短篇小説集ですが、なんの予備知識もなしに第一編「サンタさんのこない家」を読んだところ、これは体験手記かと思いました。それほど生々しい現実を小説に写し込めるのは、単なる文章力の為せる技ではなく、丹念な取材がバックに在るのだと思います。僕の家にだけサンタさんが来ないのは、僕が世界一悪い子だからと信じている子供のいじらしさは、哀しみを誘います。それにしてもいまの小学校って、「男女の別なく、さんづけ」なんですね。いや、これが事実なのか、一般的なものなのかどうかさえ、僕にはよくわかりませんがね。 「べっぴんさん」は児童虐待の母子連鎖です。自分の子供を虐待する母親が子供の頃に親から虐待されていたということですね。ここでは虐待した側を擁護するわけではないんですけど、「した側」の人のほうが深く重いものを抱えているんじゃないか、という問題提起も含まれます。この物語は虐待する母親の苦悩を理解できる人間の登場にホッとした救いがあります。 「うそつき」は自営業だということで、何かと役員を引き受けることの多い主人公僕。その息子は、4月1日に生まれたこともあり、周りについていけず、少々マイペース。でも、裏表のない開けっぴろげな性格の妻は、いつも笑って息子を受け入れていました。学校に上がって、周りのルールに合わせることができずに、泣いて帰ってくる息子の味方でした。その息子の大の仲良しが継母から食事を作ってくれないなどの虐待を受けているのでした。 この連作短編では、いま、学校や家庭で起こっているさまざまな問題、虐待や介護などが切実に語られていきます。その描写には、ゾクゾクとされるほどの迫真力があります。反面、そんな行動に出る人間を温かく見つめる視線が感じられます。扱っているテーマが地味なだけに目立たない作品ですが、第一級の文学作品と言えるでしょう。
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