リボン
ポプラ文庫 日本文学 264
小川 糸
2015年4月3日
ポプラ社
836円(税込)
絵本・児童書・図鑑 / 小説・エッセイ / 文庫
少女と祖母が大切に温めた卵から孵ったのは一羽のオカメインコだった。二人はリボンと名づけ、かわいがって育てるが、ある日リボンは飛び立っていってしまう。その後リボンと出会った人々は、この小鳥に心を寄せることで、生きる力を取り戻していく。人々の絆を描く感動作。
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(無題)
リボンは小鳥の名前。主人公のひばりと祖母・すみれの日常を描いた物語。ある日すみれが親鳥から遺棄された卵の孵化に挑戦。3個の内一羽が孵化。やがて、小鳥は巣立ちの時を迎える。飛び立った小鳥の跡を追いながらひばりは思う。「リボンが宝物だったのではない。リボンとすみれちゃんと三人で一緒に過ごした時間のすべてが私にとって宝物だったのだ。だから、宝物が消えたわけではない。宝物はずっとこの胸に残っている。」 こんな風に始まった物語は、一転して死産に打ち震えて絶望に苛まれる女性の心情模写へ。さらには、鳥のレスキュー隊で働くおかまの若い男性の日常が描かれる。さらには、バーのママさんが登場したり余命宣告を受けた女流画家の最晩年が模写される。そして、そこには添え物のような脇役としてのオカメインコがさりげなく登場する。そのインコの存在に気づかなければ、読者は自らの立ち位置を見失い、本書の中で漂流を余儀なくされる。 オカメインコと因縁を結ぶ登場人物に共通するのは「孤独」である。生きる事が「孤独」と二人三脚であるかのような生き様を続ける人々である。孤独ではあるが、それは陰鬱を伴ってはいない。むしろ静謐でさえある。だから、彼らは他人に寄りかかったりはしない。淡々と生を全うしようとする。そんな人々だ。 生きるとは、どういう事なのだろうか。つくづく考えさせられる小説だ。この世に生まれ落ちたら、親の愛情に育まれながら成長し、やがて恋をして子供を設ける。所詮はこの連続が人類の歴史であり、人生だ。その間の喜怒哀楽が人生に彩りを与える。たまたま、恋に落ちた相手が既婚者であれば、その恋自体が社会的に非難の対象となる。そして当人は何倍もの哀しみと苦しみを味わうことになる。不倫の恋に破れ、子宮摘出を余儀なくされたひばりに待ち受けるのは、人類の命を繋ぐサイクルから外れた孤独な未来である。何も知らないが故に幸せだった少女時代から20年、孤独と寄り添って生きて行かざるを得ないひばりに与えられたプレゼントはリボンとの再会であった。
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