
翼をください
原田マハ
2009年9月30日
毎日新聞出版
1,870円(税込)
小説・エッセイ
新聞記者の翔子が見つけた一枚の謎の写真。1939年、初めて世界一周をした純国産飛行機「ニッポン」号に秘められた真実。アメリカ・カンザス州アチソンーこの辺鄙な町で生まれ、世界へとはばたいていった有翼の女神。より高く、もっと早く、ずっと遠くへ。気鋭のストーリーテラー『カフーを待ちわびて』の原田マハが放つ、強くて切ない、大河物語。
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(無題)
昭和14年、毎日新聞社のニッポン号が世界初の快挙、国産機と日本人クルーによる世界一周に飛び立ちました。こんな史実に被せて著者は、乗員の1人を同社カメラマンの山田順平に差し替えるとともに、もう一人分の座席を用意して壮大なドラマを始めます。 太平洋を無着陸で横断出来るほどの航続距離を持つ国産機、白羽の矢が立てられたのは、海軍の九六式中型攻撃機でした。しかし、現役バリバリの軍用機の使用を、海軍がそう簡単に認めるはずがありません。山本五十六海軍次官と明星新聞社社長・奥村新之助のトップ会談で決定したのでした。この時、山本五十六はひとつの条件を出しました。それが8人目の乗員でした。 太平洋横断のためにベーリング海に飛び立つ前日、8人目の乗員が機長から紹介されました。ボーイと名乗ったもののどう見ても女性、それも外国人です。彼女は世界的パイロット、エイミー・イーグルウイングでした。しかし、彼女は2年前に世界一周を成し遂げる直前に飛行中、行方不明になっていたのですから、何がどうなっているのか、謎は深まります。 本書の前半部分はエイミーがパイロットを目指して着々と実績を積み重ねて行く姿が、世界一周を目前に太平洋に墜落するまでが描かれます。彼女の周りには、野心溢れるプロモータージョナサン、柄は悪いが腕は一級のパイロット・ビル、整備士兼副操縦士の相棒ボビー、そして彼女が密かに思いを寄せる地上通信士のトビアスがいました。トントン拍子に世界一周の企画が実現しますが、その影にはフランクリン・ルーズベルト大統領の野望が渦巻いていたのです。アインシュタイン博士の手紙で真実を知りました。飛行機とフライトが何より好きなエイミーの信念は『世界はひとつ』です。飛行機を戦争の道具に、武器にする権力者や軍人には我慢出来ませんでした。 秘密を知った彼女の立場は危険なものでした。命を狙われかもしれないし、周りにも迷惑がかかります。 後半部分、舞台を日本に移してから本書は俄然面白くなります。ニッポン号のフライトが描かれています。世界一周の大冒険ですから、手に汗、胸躍るシーンが続出です。特に国籍不明の戦闘機から銃撃を受ける場面は大迫力です。後書きによると、九六陸攻の操縦経験のある高橋さんへのインタビューの成果だというのですから、著者の筆力には脱帽です。
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