河原ノ者・非人・秀吉

服部英雄

2012年4月30日

山川出版社(千代田区)

3,080円(税込)

人文・思想・社会

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2.7 2018年01月28日

帯には「非人の世界に身を置きながら 関白にまで昇りつめた秀吉」「あらゆる史料を熟読し、秀頼は秀吉の実の子ではないことを立証した」とある。著者は本書で乞食が秀吉の出自だと言っている。義父との折り合いが悪く、ストリートチルドレンとなった秀吉。彼は猿と言われたが、まるで猿のように栗を食った記録が残されており、それが乞食として生きていた時の大道芸だった。住まいを持たぬ大道芸人は、非人長吏の支配下にあった。 かように興味深い内容だが、本書をセンセーショナルなキワモノの様に評価するの大いなる間違いであろう。 まず、七百ページを超える大著である。しかも主要な部分は、秀吉を扱った第二部「豊臣秀吉」ではなく、圧倒的量を占める第一部の「河原ノ者・非人」である。それがあってこその秀吉論となっている。 日本史関係の本の中では出色だ。被差別民の世界を描いているが、彼らの生活ぶりが生き生きと再現されている。第一章の「犬追者を演出した河原ノ者たち」では、競技の下支えをした彼らの働きぶりが再現される。競技用の犬の調達から、競技最中の犬の逃がし方まで、史料の上から検証されている。競技終了後の侍が放った矢で傷ついた犬は河原ノ者が処分したが、食べられた場合も多かった。わが国には食犬の文化があったのだ 第二章「大和北山非人宿をめぐる東大寺と興福寺」では奈良坂と般若坂の非人達が東大寺や興福寺の支配を受けて生き生きと活動していた様子が描かれる。癩者も被差別の対象であったが東大寺は彼等の風呂を設けて衆生済度の実践を行なっていたという。その他各地の被差別民の姿が豊富な資料とともに語られる。 日本中世史では網野善彦の業績が圧倒的であろう。「無縁・公界・楽―日本中世の自由と平和」や「異形の王権」を読んだときの衝撃は今でも鮮やかに蘇る。職人や芸能者などの漂泊民に焦点をあてて、それまでの農耕民中心の均質に日本列島をみて来た歴史界に問題提起を行った。 本書も問題意識の設定や魅力的な各項目などに期待を持たせる内容が満載である。サンカという山の民の資料に迫り、特に三角寛によるサンカ像の捏造批判など興味深い。 また、中世・白拍子が差別されていたかどうかの論考は面白い。基本的には差別されていなかったとの立場を取る網野説を紹介しつつ、服部は被差別説を展開する。 本書は極めて具体的かつ詳細で、小説を読むような臨場感がある。が、単に面白いというだけでなく、歴史記述の独特な方法が浮かび上がって来る。学問は、証拠を並べて真実を証明する場である。しかし、それでは浮かび上がって来ないことがある。そのひとつが本書のテーマである被差別民の世界だ。本書によって被差別民が多くの分野での職人として社会を支えてきたことが見えて来る。ヨーロッパ人宣教師を始めとする当時の人々の記録を重要視することで、見事に人間を浮かび上がらせている。

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