精神分析新時代

岡野憲一郎

2018年11月26日

岩崎学術出版社

3,520円(税込)

人文・思想・社会 / 医学・薬学・看護学・歯科学

(序文より抜粋) 精神分析の未来形 妙木 浩之   若い時から良く知っているが,岡野憲一郎は「書く人」である。彼はいつも考えていることを書きながら歩いている。その思索は,書くことによって再帰的に着想になり,オリジナルな思考がその循環のなかから生み出される。本書は,そのオリジナルな思索を,文字通り,精神分析とは何かという問いに,改めて組みなおそうとした本だ。…  おそらく日本を含めて,精神分析のパラダイムに地殻変動が起きていることは間違いない。それを「静かな革命」と呼ぼうと「分析新世代」と呼ぼうと,パラダイムの変更がはっきりして私たちの目に見えるのは,まだ先のことだろう。これからの精神分析を考える上で,期待や願望を含めて,重要な論点を列挙するなら, 1 精神分析の理論の全体を,既存の対象関係論のパラダイムをもとに,組み替えていく。結果として, 2 精神分析が他の諸科学との接点のなかで,オリジナルな思考を展開する。 3 新しい精神科学の知見に合わせて理論の更新と修正を繰り返していく,ということが求められている。 これら後半の二つが,本書の主題であり,岡野が問い直していることだ。もちろん,これらの行為を現代ではEvidence-basedな世界との接点を求めることで行っていく必要もあるだろうが,そもそも,他の隣接科学への接点という着想があるかないかは大きい。例えば,かつてフランクフルト学派,つまり批判理論は,マルクス主義と精神分析を車輪の両軸のようにして発展した社会学だったが,それだけ精神分析の着想が担保されていた時代があるのだ。現在,精神分析理論が他の学問に影響する回路は,「臨床」という名前で学問が閉ざされ始めてから,すっかり失われてしまったように見える。精神分析は独自な方法論であることは確かだが,理論は汎用性が必要であり,そのためもう一度,他の諸科学にインパクトのある理論に組みなおしていく,問い直していく必要がある。岡野の仕事は,そうした着想に満ちている。  だから本書で登場する,これまでの前提を「問い直す」という各章は,精神分析臨床そのものを脱構築しようとする彼の意思表明だ。そして最後に脳科学,さらには現代のAIの深層学習に触れながら,無意識を再定式化しようとするところはなかなかスリリングである。解釈って何か,終結って何か,といった技法への問い直しのみならず,フロイトがジャネとの関係で踏み込まなかった「解離」を愛着理論の視点からとらえなおして,右脳の機能的な理解から,さらには深層学習の理解から,新しいアイデアを提示しようとしている。私たちが当然の前提としてしまっている精神分析のジャーゴンやドグマに対する異議申し立て。「書く人」岡野憲一郎の思索は,精神分析の未来を考える上で,重要な一石を投じている。  できる限り,大きな波紋が拡がることを願っている。

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