蓮花の契り
出世花
ハルキ文庫
高田郁
2015年6月30日
角川春樹事務所
660円(税込)
小説・エッセイ / 文庫
下落合で弔いを専門とする墓寺、青泉寺。お縁は「三味聖」としてその湯潅場に立ち、死者の無念や心残りを取り除くように、優しい手で亡骸を洗い清める。そんな三昧聖の湯灌を望む者は多く、夢中で働くうちに、お縁は二十二歳になっていた。だが、文化三年から翌年にかけて、江戸の街は大きな不幸に見舞われ、それに伴い、お縁にまつわるひとびと、そしてお縁自身の運命の歯車が狂い始める。実母お香との真の和解はあるのか、そして正念との関係に新たな展開はあるのか。お縁にとっての真の幸せとは何か。生きることの意味を問う物語、堂々の完結。
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(無題)
読み終わった。それにしても中途半端感を拭う事は出来ない。確かに作者らしい暖かさは漂う。ほのかな恋心も潜ませている。湯灌を模したシーンでは、感動を味わう事も出来る。しかし、もう一歩なのである。なぜなら、作者が本作で新境地の開拓を目指したのだろうが、十分に踏み込んでいない中途半端さだと考えられる。 その事をもう少し考えてみたい。まず作者はなぜ三昧聖などといった社会的に特殊な人間を主人公に設定したのだろうか。ちなみに、三昧聖とは死者の埋葬や墓地の管理などに携わる者で、ケガレ意識を引き受けた被差別身分の総称である。この設定自体が「差別」といった社会性に正面から取り組む作者の強い意思の表れでなかったのだろうか。この点に関しては、作中でヒロインが三昧聖故に蔑まれるシーンはあるものの、全体的に「菩薩」などと持ち上げられているのは、どうにも薄っぺらい。 もうひとつは、主人公の名前に込められた作者の意図である。艶から縁に改名している。艶は色っぽくなまめかしいさまである。また、縁は、仏教ではすべての事象はそれ自体、孤立して存在するのではなく、相互に依存して存在しているという存在論である。また、縁の母は縁を捨てて不義密通に走った女である。ここにも性愛に惑わされる女の宿業を垣間見ることができる。愛欲に光を当てて人間を描こうとした作者の意図を予想するのは容易だ。 ところで、そのような作者の意図は本作で成功しているのだろうか。読み終わってみると、結局は「良い人の物語」なのである。みおつくし料理帖の世界から一歩も踏み出してはいない。
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