戦国、夢のかなた

時代小説文庫

岡本さとる

2019年6月12日

角川春樹事務所

770円(税込)

小説・エッセイ / 文庫

名将・真田幸村の忘れ形見、吉利支丹武将、豊臣の血筋が共に立ち上がった。大坂の陣で幸村と共に戦い、落ち延びた明石掃部。熱烈な吉利支丹である掃部は、禁教令を敷き年々迫害を強めている徳川に対し、再び旗を揚げる機をうかがっていた。落ち延びた命ー戦国の荒野に忘れてきた夢を取り返すべく、男たちは再び戦いはじめる。歴史上の様々な伝説を贅沢に織り込んだ、一気読み必至の戦国エンターテインメント!

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終わりゆく戦国の世で光を放ったものたち

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3.8 2021年02月19日

▼概要 ・帯文言 戦国 “最後の戦い” ! 様々な伝説を織り込んだ、ぜいたくなエンターテインメント ・あらすじ 名将・真田幸村の忘れ形見、吉利支丹武将、豊臣の血筋が共に立ち上がった。大坂の陣で幸村と共に戦い、落ち延びた明石掃部。熱烈な吉利支丹である掃部は、禁教令を敷き年々迫害を強めている徳川に対し、再び旗を揚げる機をうかがっていた。落ち延びた命―戦国の荒野に忘れてきた夢を取り返すべく、男たちは再び戦いはじめる。歴史上の様々な伝説を贅沢に織り込んだ、一気読み必至の戦国エンターテインメント! ■構成 江戸時代初期に起こった一揆「天草・島原の乱」をテーマに、様々な伝承を織り交ぜた物語。時代背景がちょうどよく、戦国時代最後の戦いと言われた「大坂の陣」から約20年後(関ケ原より40年後)に、戦国の世で猛将と言われた者たちが、老将となり最後に一花を咲かせる。 真田幸村の嫡男 大助をはじめ、明石掃部、福島正則、成田甲斐(妙秀尼)など、当時から見れば、生き残っていることすら奇跡ともいえる戦国のスターが勢ぞろい。これらの登場人物すべてが豊臣恩顧というのがさらに面白味を増しており、戦国時代に詳しい方であれば、興味をそそられるのではないだろうか。 戦国の世に大きな忘れ物をしてきた、徳川の世になじめない彼らは、徳川に一矢報いんがために動き出す。 一方で、徳川方で戦国時代を知る老将として描かれるのは、立花宗茂と水野勝成。徳川の軍門に下り安泰を得た彼らであったが、彼らが見た明石・福島らの姿とは、羨ましいほどに眩しい存在であった。 こういった「おとな組」に反し、この乱の後を担う「わかもの組」世代として、一揆側は天草四郎(真田大助)、徳川方は松平信綱が描かれる。天草方の目的と信綱方が思い描く徳川の世の在り方とは。 数十年前の戦国の世を渡ってきた「おとな組」と、太平の世に育ち、これからの世をつくる「わかもの組」。彼らが次代につなごうとした志を描く。 第一話 弁才船 第二話 戦国武将 第三話 六文銭 第四話 兵法者 第五話 千姫 第六話 天草 第七話 幻の姫 第八話 亡将 第九話 圧制 第十話 挙兵 第十一話 春の城 第十二話 決戦 第十三話 夢のかなた ■内容 物語は、真田大助が大阪の陣で敗れた後、坂崎直盛(旧宇喜多詮家)の助けを経て、明石掃部に助けられる場面から始まる。記憶を失っていた大助であったが、この船上で印象的な言葉が出てくる。 「夢や目標を定め、それを完遂するために生きるのが男である」P20 この言葉の通り、徳川の兵を迎え撃つために大助は大将となるため、日々研鑽に励んでいくのであった。 この大助に兵学を教える役目を担う明石掃部や福島正則は、戦国の世をどっぷりと味わい、豊臣恩顧の人物としてその名を馳せた人物であった。関ケ原での主君との約束を果たせなかった明石の無念、大坂の陣で駆け付けられなかった福島の後悔。様々な思いと共に、彼らは戦場を望まずにはいられなかった。 続いて、夢を見る男たちとは異なりこの物語に一層のエンターテイメントを加えてくれているのが、「天秀尼」である。秀頼の血を継いだこの幻の姫は、真田との幼き日の出会いを通して、その血を後世につないでいく。 もちろんこの「わかもの組」を支えた「おとな組」ヒロイン「妙秀尼」の活躍もさることながら、この豊臣の血筋という側面が、彼ら一揆組の想いを強めているのは間違いない。 こうして徳川方に歯向かうものたちは、徳川という世の型枠に縛られながらも、実に総会にそして伸び伸びと、この徳川の世で反徳川の旗を揚げるのだ。 一方で、徳川方は公儀に守られているにも関わらず、何故か窮屈な気がしてしまう。 最初に討伐軍の総大将とされた松倉重政は、多少なりとも戦国の世を知っている「おとな組」だからであろうか、徳川の世となった公儀側の人間として、周囲の諸大名との軋轢や徳川家の面目といった枷にからめとられ戦死を遂げる。 初期こそ優勢であった島原・天草の乱だが、徐々に終結に近づいていく。 この戦の最後に彼らが掲げた馬印は紛れもなく豊臣の本陣を示す「千成瓢箪」であった。これこそがこのエンターテインメント最大の見せ場であろう。徳川の世に圧されながらも、本丸にまで追い詰められながらも、彼らには反徳川の旗印として、これ以外にはない馬印を掲げたのだ。 この最後のシーンで、彼らはこう言いあう。 真田大助「最後の最後まであきらめるものではござりませぬ。」 福島正則「楽しき日々であった。千成瓢箪も掲げられた。豊臣の武辺もまだまだ続くぞよ!」 最後まであきらめずに戦い抜き、見事にその想いを爆ぜたものたち。この最後の言葉の通り、この乱の終結後も彼らの物語は続いていくのだ。 そして、この乱の終結を迎える際、徳川方の総大将を引き継いでいた松平信綱は徳川の時代を担う「わかもの組」として、戦国の気風を残してはならないと知恵を巡らせる。ある意味、この帰結は天草方が望んだものでもあるのだろう。 「豊臣の世に郷愁を覚える者は未だ多い。戦乱の世に生まれた徒花に、人は妖しい魅力を覆えずにいられないからだ。それを忘れさせるものはなにか―。歌、舞、音曲、芸能、書画、学問、読物…。太平の世でのうては楽しめぬものの芽生えこそ。」P317 こうして、太平の世に騒乱を起こした彼らの活躍は、太平の世で楽しめぬものを通じて伝承となり、後世に残っていくのであった。それらが紡ぎあい、今もこうして我々を楽しませてくれる。

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