二千年紀の社会と思想

atプラス叢書

見田宗介 / 大澤真幸

2012年4月30日

太田出版

1,760円(税込)

人文・思想・社会

千年の射程で人類のビジョンを示す、日本を代表する社会学者による奇蹟の対談集。

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Readeeユーザー

(無題)

-- 2018年01月21日

「ローマ帝国衰亡史」を著した英国の歴史家エドワード・ギボンは、同書の中で五賢帝時代を『人類が最も幸福であった時代』と評しました。それでは五賢帝時代とは具体的にはどんな時代だったのでしょうか。この時代、ローマ帝国の版図は最大化し、ローマ市民は繁栄を謳歌しました。その結果もたらされたのがパックスロマーナでした。この時代、ほぼ100年間にわたって平和が維持され続けました。それは帝国の圧倒的な軍事力と経済力、そして影響力によるものでした。 平和と豊かさの他に、この時代を特徴づけるファクターがもうひとつ考えられます。それは帝政でありながらも、世襲によらず優れた指導者を養子に迎える統治体制に見い出す事ができます。現代に生きる僕たちから見れば、共和制から帝政を選択したローマ市民には、「どうして」との素朴な疑問を禁じえません。何故なら帝政→共和制が近代の歴史であり、僕たちはそれが人類の進歩と思ってきたからです。この謎を解くキーワードが「効率化」だったのです。ローマ市民は、統治の効率化を目指して、期限付き独裁官→終身独裁官→皇帝の政体を選択しました。皇帝といっても僕たちが持つイメージとは若干の違いがあります。何しろ、不人気の皇帝は暗殺されるのですから。ともあれ、民主主義の弱点はコストと手間がかかるところにあります。ですから、ウインストン・チャーチルは英国人らしいウイットと皮肉を込めて、次のように述べています。『民主主義は最悪の政治形態と言うことが出来る。これまでに試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治形態を除けば、だが』。 さて、その民主主義を定義付けるならば、何よりも「自由」を守ることを大事にする社会制度ということもできるでしょう。また、その社会を構成する人々の権限は、選挙における投票行動によって行使されます。これを議会制民主主義と言いますね。つまり現代における僕たちの民主主義は、国政では国会議員を選出する事に限定されています。司法、立法、行政の三権の国家権力の内、立法府の議員を選出することにしか関われないわけです。これら三権は独立してお互い牽制してバランスすることになっていますが、実際は行政府の力が突出している事は誰の目にも明らかです。だって憲法解釈を閣議決定で覆す事ができるなんて、そんなのは民主主義とは言いません。そんな事ができるのは独裁国家です。中学生にどんな風に教えたらいいのでしょうかね。つまり僕がここで言いたいのは、民主主義は優れた制度ではあるが、若干の手直しが必要だ、という事です。 それと同様に僕たちの未来には資本主義しかない事は、20世紀における共産主義の壮大な実験結果から明らかです。ところが資本主義は本来暴力的で、放っておくと弱肉強食の凄まじい世の中となり、人類に幸せをもたらす装置とは言えなくなってしまいます。また、市場は、希少な資源を最適に配分するための最高のメカニズムである事は論を待ちません。しかしながら、市場が自ら、必要となる法を整備したり、生産手段をフル活用するための需要を創出したりすることはできません。ですから市場経済を効率的に機能させるためには、法整備によって所有権が担保されるとともに企業間の競争が維持され、きちんとした賃金や公共支出がなされ需要が創出されることが重要となります。現在のところ、その役割を果たすのは、国家しか考えられません。ところが市場は最早グローバル化しており、これを政治化するには地球規模の法整備が求められます。一方、個人の自由が絶対的価値観となっている現代社会で、このような新たなコンセンサスを得る事ができるのか、いややらなくては僕らの孫世代の将来は暗いのですから、やらなくてはならないのです。 本書には題名から言って将来の千年を見通して、上記のような内容を期待したのですが、僕の期待は裏切られたようです。かろうじて200年先まで言及している部分が ありましたので、紹介しておきます。『創業者は猛烈に稼いで豊かな財産を築き上げ、2代目は1代目の苦労を知っているから、すでに豊かであってもさらに稼いでお店を大きくしようとする。3代目はその辛苦を知らないので、文化や趣味に生きて散財するパターン』。見田は現在の日本はまだ2代目にあるので、これから先、道楽息子の三代目を目指すべきだ、と言っています。なんとなく分かる部分もありますが、それではどうやって喰っていくんですかね。本書中で現状を分析してみせる部分が何ヶ所かありますが、そこには鋭さを感じました。このテーマは社会学者には少しばかり荷が重かったのではないでしょうか。

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