個人空間の誕生
食卓・家屋・劇場・世界
イ-フ-・トゥアン / 阿部一
1993年4月15日
せりか書房
3,190円(税込)
人文・思想・社会
大騒ぎの粗野な食事から、用途別の食器とテーブルマナーが確立した食事へ。広間での雑居状態から、個室への引きこもりへ。観客と役者の一体化した劇から、純粋に見る劇へ。このような変化が近代の始まりとともにほぼ同時に起こったのである。変化の時期は、ヨーロッパにおいてテーブルマナーの影響が大きくなったのが16世紀、家族が個室へと引きこもり始めたのが16世紀末であり、劇が世俗化し観客と役者が完全に分離したのは17世紀、音や香りよりも視覚が重視されるようになったのも16世紀終り頃である。16世紀末以来のこうした空間の個別化にともない、ヨーロッパ近代人が誕生したのだ。それは、自分の食器で食べ、入門書によりさまざまなマナーを身につけ、私室で眠り、舞台上の人物の苦悩を眺め、風景を鑑賞し、本を黙読する人間の誕生だったのである。
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