コーイチは、高く飛んだ

元体操選手としては体操本があると聞いたら読まないわけにはいかない。 両親が経営するクラブで才能を伸ばす幸一。得意種目は鉄棒。ある日、妹が似奈が階段から転落し意識不明に。父がコーチという立場を利用したセクハラ容疑をかけられる（体操競技は危険度が高いので試技をする際に補助が入る。当然体を触らなければ補助はできない。生徒側から一方的にセクハラと言われたら事実と関係なく逃れる術はない。そこは一重に信頼関係という絆のみが頼りである。）。これらのストレスが重なり、母は身ごもっていた妹を流産。精神が不安定な状態で臨んだ世界大会はもちろん振るわず、「呪われた体操選手」としてメディアに取り上げられる。 しかしそんなどん底から何かを変えるには、明るい出来事を自分の手で起こすしかない。 そのためにできる事は...「体操を極めること」。 かっこよすぎる16歳。 元体操選手が体操競技中の事故について解説します。確かに体操競技は一歩間違えば大事故につながる危険性を孕む競技ですが、この作品を読んで勘違いしないでいただきたい。 似奈が二回宙をひとりで練習したシチュエーション。あれはあり得ないです。トランポリンは一回宙でも着地を失敗すれば放りだされるのを熟知している体操選手が、補助なしで二回宙に挑戦することは絶対にない。技が完成して自身がある場合を除き補助の設置は絶対です。補助ありでの事故とするべきだった。たとえ切迫した状態の中学生とはいえ、技の挑戦を繰り返し、失敗の恐怖を知る者に対し、目を離した隙に勝手に自爆とは...みくびるべからず。 幸一のラスト降り。あれもない。たとえ伸身三回宙であっても練習で前方に流れる程度の熟練度であればどんなに回転が足りなくても伏臥位での着地となり、練習時の様に足が出る。ヤバいと思ったら回転を止めることもできる（惰性で流れるけれども）。前半の演技からは絶好調であったことが伺えるため、仮に過回転となったとしても背中からの着地となり受け身は取れるはず。受け身が取れない状態は練習中にあったプロテや器具自身が切れたとき。手がすっぽ抜けたとき。それ以外で着地を狙った場合、それがどんなに難易度が高くでも故障はするかもしれないが命に関わる降りにはならない。特に彼は世界大会に出るレベルの一流選手である。飛んだ瞬間の感覚でイケるかイケないかがわからない素人でもあるまいに、体操選手をなめてもらっては困る。 と、言ったが全体としては良作。ただし体操経験者やよほどのファンじゃないと技の構成が想像できないと思う。アドラー一回ひねりとか説明すらなかったのでは（確かに説明しにくい...）？子供の名前に数の話題があった時から連続性には気づいたが、まさかの展開。ずっと誤推していました。雪人は短期間にメンターをふたりも失ったのか...辛すぎる。 「気持ちと体が連動していないと上手くいかない」まさにそんな競技です。久々に背筋が伸びました。

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