経済成長なき社会発展は可能か?

〈脱成長〉と〈ポスト開発〉の経済学

セルジュ・ラトゥーシュ / 中野佳裕

2010年7月31日

作品社

3,080円(税込)

ビジネス・経済・就職

いかなる経済学が、新自由主義に代わって、ポスト・グローバル化時代の指針となるのか?金融危機・債務危機を引き起し、地球環境を破壊してしまった「新自由主義」に代わって、現在、最も欧州で注目されているのが、“脱成長”の経済学である。“脱成長による新たな社会発展”を目指すこの経済理論は、グローバル資本主義の構造的矛盾を克服するものとして、左右の政治の壁を越えて話題となり、国会でも論議されている。“脱開発”を掲げる新聞・学術誌が発刊され、学会や地方政党も誕生し、社会現象となるにまでにいたっている。本書は、その提唱者である経済学者ラトゥーシュの代表作二冊を日本読者向けに一冊にまとめた、“脱開発”学派の基本書というべきものである。

本棚に登録&レビュー

みんなの評価(1

starstarstarstar 4

読みたい

2

未読

1

読書中

0

既読

5

未指定

15

書店員レビュー(0)
書店員レビュー一覧

みんなのレビュー (1)

Readeeユーザー

(無題)

-- 2018年01月22日

2015年が明けました。今年はミレニアム開発目標の達成年です。21世紀の国際社会の目標であるミレニアム国連宣言が採択されたのは、新たなるミレニアム21世紀が始まった直後でした。これは、平和と安全、開発と貧困、環境、人権とグッドガバナンスなど21世紀の国連の役割に関する明確な方向性を提示するものでした。この国連ミレニアム宣言と90年代に開催された主要な国際会議やサミットで採択された国際開発目標を統合し、一つの共通の枠組みとしてまとめられたものがミレニアム開発目標です。これからの地球、私たちの社会はこのロードマップに沿って進展しているのでしょうか。今年は、その確認を行う年と言えるかもしれません。 私たち日本人の祖先は「一年の計は元旦にあり」と年頭にはマクロな展望を務めて持とうとしました。僕もその伝統にしたがってマクロ経済の書を読むことにしたものです。本書の紹介の前に、無限の成長は地球と言う有限の惑星とは相入れないと言うこと、また我々の消費活動と生産活動が生態系の再生能力を超えることができないと言う基本認識を共有したいと思います。いま私たちは、もしかして過剰消費のためにあくせくと働き、精神的に疲れ切っているのではないでしょうか。また私たちが地下資源を使い果たしながら地球の生態系を破壊し、農薬を大量に使った食品を遠くから輸送し、それを過剰に摂取して進んで自分の健康を損ねているのは何故なのでしょうか。本書の著者であるフランスの経済哲学者セルジュ・ラトゥーシュは、それは「経済成長」という信仰から起こる行為であり、この呪縛から逃れ脱成長へと価値転換を起こすところに、人類の健全な未来があると説きます。そして本書で著者は私たちの未来を「脱成長か野蛮か」から選択すべきと迫ります。 ここで誤解のないように「脱成長」の概念に触れておきますね。脱成長とはただ単に成長の速度を緩めるというものではありません。そんな事をすれば、社会が混乱に陥る事は誰もが知っていますね。失業は増加し必要不可欠な最低限の生活の質を保障する社会、保険、教育、文化、環境の各分野におけるプログラムを破綻させてしまいます。脱成長をもう少しイメージしやすい言葉を使うなら、より少なく労働し、より少なく消費しながら、よりよく生きるための社会を創造することと言えましょうか。 ところで、私たちはこれまで経済成長が人々に豊かさをもたらし、豊かさは幸せの一要素であるから、経済成長を善とすることを疑うことはありませんでした。ところが著者は本書で次のような指摘をします。『GNPの成長率を3.5%(20世紀後半のフランス平均)とするとGNPは100年後に31倍になり、中国並みの10%ならば、736倍になる。したがって、地球環境の維持と量的経済成長が両立しないことは明白となる』と。 それでは、脱成長社会の構築には具体的にどのような政策展開が求められるのでしょうか。ラトゥーシュは「再評価する」、「概念を再構築する」、「社会構造を組み立てなおす」、「再配分を行う」、「再ローカリゼーションを行う」、「削減する」、「再利用する」、「リサイクルを行う」の八つの再生プログラムを提案します。ここでは、上記八プログラムのうち、再ローカリゼーションを説いていることにのみ触れておきましょう。 アメリカ主導のグローバリゼーション、新市場主義が現在の世界を席巻している事実を苦々しい思いで見ている「良識派」も多いと思います。強欲で暴力的な資本主義は、ラトゥーシュが「開発の遭難者たち」と呼んだ開発政策から排除された都市スラムや農村の領域のように、経済成長社会とは別の生活圏が形成されつつあるからです。「グローバルに考え、ローカルに行動する」という著者の主張は一理あります。慎ましくはあるが、幸せな未来が待ち受けている事を願いたいと思わせた一書でした。

全部を表示
Google Play で手に入れよう
Google Play で手に入れよう
キーワードは1文字以上で検索してください