さようなら十七才海と心の詩

わたくしはどこへ行くのでしょう

高岡和子

2012年4月30日

リーダーズノート

1,445円(税込)

人文・思想・社会

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3.7 2018年01月29日

半世紀前に17歳だった少女が問う「なぜ社会は息苦しいの」と。高岡和子は1946年生まれだから、生きていれば私とほぼ同年齢だ。高岡和子の詩と随想などを集めた「さようなら十七才 海と心の詩-わたくしはどこへ行くのでしょう」が、このほど再刊された。若いころ、高岡の遺作を集めた本に魅せられた編集者が、その本を出すきっかけをつくった人を捜し当て、遺作を再び世に送り出したのだ。 かつて17才の女子高校生がいた。横浜のミッション系の高校に通うお茶目な子で、新聞部で活躍していた。彼女には、誰にも言っていないことがあった。それは、将来、詩人になることだった。幼いころより詩を書くことに喜びを覚えた彼女は、詩人として生きていくことを決心した。誰にも明かすことなく、中学1年から高校2年まで詩作を続け、自分の苦しみや悲しみ、孤独感、そして喜びや感動を、心象詩としてノートに書き続けた。そのことは、家族すらも知らなかったという。 詩を書くことで「世界の人たちを幸せにしたい」と思っていた。しかしその夢は、自分でも現実的ではないと思うようになる。やがて彼女の書く詩は、哀しみに満ちた孤独な内面をあらわすようになる。傷口で風を感じるような鋭敏さが、彼女の詩に魂を吹き込んでいく。 17才にして、彼女はすでに自らを詩人であると自覚していた。そしてこう書く。「詩に対して謙虚になる。自分を思いきり小さくすること。自分というのは自我である。自我が消滅すると、おのずから心は透明になる。心の中に詩が充満し、詩の結晶が宝石のようにころがり出る。ああ、それが詩人の詩人たる境地、詩人の最も幸福な一瞬である」。 1964年、2月の寒い夜。湘南海岸の海辺で最後の日記を書いた。そしてノートを砂浜に置き、彼女は消息を絶った。遺体は大島付近の海上で発見された。 密かに書かれた彼女の詩は、人の心を動かした。しかしそれは、すべてが終わったあとのことだった。 彼女が嫌悪した矛盾に満ちた社会。生き方上手になればなるほど、不純になり詩が書けなくなる自分。そのジレンマから脱するために、自分を曲げることが、どうしてもできなかった彼女がいた。 作家の故伊藤整は、彼女の詩を読んで「傷つく人の悲鳴」と表現した。「ものをよく感ずるということは、自分を傷つけることであり、自分を危い場所へ押しやることだと分る。この感じやすさは、この少女を内側からこわして行ったのであろう」 この本との出会いは、しばし時間が止まる読書体験であった。

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