酒と本があれば、人生何とかやっていける
本に遇う
河谷史夫
2011年10月31日
言視舎
2,420円(税込)
小説・エッセイ
会員誌『選択』に十年以上にわたって書き継がれてきた本をめぐるエッセイを二冊本にまとめる。時代小説、ミステリー、伝記はもちろん詩集、マスコミ批判の本まで網羅し、その解くところ、出処進退、生老病死、性・愛、色と恋、人生の節目に生起するもの、つまり人生そのものに及ぶ。永らく刊行が待たれた書が、いま、ようやく陽の目を見る。
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(無題)
書名が今の心境にピッタリだったので、手にとって見た。そして、著者は朝日新聞社会部出身と知って、無頼のひとを想像したが、この予想は全く外れた。 本書は「選択」という雑誌に2000年から10年間連載した「本に遇う」というコラムのはじめの6年分をまとめたものである。連載タイトルが示すように、本の内容だけでなく、「本をだしに、毎回、好きなことを好きなように書い」た、と著者は言う。連載開始時に朝日新聞の書評委員を務め、連載後半にはコラム「素粒子」を書いていた著者らしく、エッセイと書評を合わせた内容で、頗る格調高い。 自分と同じ知的レベルの友と交わることを人生最高の悦楽と言ったのは、司馬遼太郎だったか。兎に角著者の知的レベルが高いのである。そして奥付けを見ると私とは二歳違いなので、同時代人のはずなのだが、世代感覚のズレを感じてしまう。例えば電子郵便などという用語や60年安保を生きた様な物いいである。著者が老成しているのか、或いは私の精神年齢が幼すぎるのか。 ともあれ本書で図書の紹介がされているが、ほとんどがノンフィクションである。その中で読んでみたいと思ったのが沢木耕太郎の「凍」である。沢木はノンフィクション作家として嘘は書かないを信条としていたが、それでも自分の想像を入れてしまう。結局は嘘を書いてしまう自分に気づき、書けなくなってしまう。やがて復活した沢木は「凍」を書く。主人公二人の視点で、二人が沢木に憑依したかのごとく書くのである、そうだ。 もう一点、中江兆民の息子中江丑吉の人生を紹介したい。この人の一生は、ただ本を読んで終わったようなものだ。しかし真珠湾攻撃で太平洋戦争勃発の時、北京にあって「田舎の力自慢のならず者が、けつをまくって下駄を抜いで、昼寝をしている横綱の横面をぶん殴ったんだね。アメリカもいい加減驚くよ」といったそうだ。また、開戦早々の戦果、また戦果におごりたかぶる空気の醸成される中、さらに彼はこうも言った。 「たぬきがのぼせて機関車めがけてぶつかっていくんだね」 。
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