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二人の嘘

共有することのない過去の苦しみと悲しみを重ねた二つの道。これが必然の終焉。

--2021年11月09日

ひさだかおり

書店員@精文館書店中島新町店

二人の嘘

一雫 ライオン

2021年06月23日

幻冬舎 1980円(税込)2021年06月23日

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4.11
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二人の関係を「運命」という言葉で彩るとして、その魂は救いを求めていたのだろうか。 出会ったときから始まる悲劇の中を堕ち続ける二人。読み終わった後の息苦しさにうろたえている。 本能を失い間違えることを避け続けた「美しい」判事と、罪をかぶり赦されることを拒む元受刑者の男。 強さとつよさ。 共有することのない過去の苦しみと悲しみが重ねた二つの道。凍り付いた魂が溶けた瞬間のその一瞬の灯が心に焼き付いた。あぁ、そうか。二人は堕ちることで赦されたのか。いや、違う。女は共に堕ちることで救われて欲しかったのに、男は救われることを拒んだのだ。どこまでも孤独な心を抱えて女の心を満たすためだけに選んだ旅。 氷のように冷たい手は、重ねたときだけ熱を持ったのだろう。 超越した頭脳と美しさという鎧をまとい、心を殺して生きていた女と、光を避けそれでも俯かず生きてきた男の、これが必然の終焉。


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